第5章 放射線の利用
§2 アイソトープ利用

3.農・水産業利用

 アイソトープは,農・水産業の分野では,肥料の土壌中での移動および吸収過程の追跡,かんがい用ダム用の漏水の調査,農作物の害中駆除効果の研究に利用されている。とくに,標識化合物で研究の結果,BHCの水面散布法が採用され,急速な普及をみた。また,玉ねぎの施肥法の改良により単位面積あたりの収量が倍加した。一方,放射線照射による稲,野菜,果樹等各種の植物およびあこや貝,蚕等の動物の品種改良の研究が各地の試験場や大学で広く行なわれ,漸次その成果が実用化されている,この他,食品の殺菌,貯蔵や家畜の病気の診断,治療にも利用されている。
 植物の放射線照射による苗種改良の研究は,36年以来茨城県大宮町の農林省放射線育種場で行なわれている。この育種場は,この種の施設として世界で2番目の規模(1位は米国のBrookhaven N.L.のもので半径115メートル,60Co 3,800キュリー)で,半径100メートル,60Co約2,000キュリーである,最初の照射テストは,36年6月に行なわれ,当時は,夜間の10時間照射であったが,37年4月からは,20時間照射を行なっている。稲については強短稈多収な品種が育成され,農業試験場で適地試験が行なわれている。
 たばこについても,早生,耐病性,多収のものが育成され,実用化の域に近づいている。なお,この施設は,農林省関係の試験研究機関のみならず広く大学関係機関等による利用にも開放されている。


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