第5章 放射線の利用

§1 概況

 わが国における放射線の利用は,昭和12年,故仁科芳雄博士(理化学研究所)によって建設されたサイクロトロンを使用して,24Na,32P,13N等のアイソトープを製造し,化学,生物学の研究に応用したのがはじまりである。
 その後,戦争のためこの種の利用は,一時中断されていたが,25年から,アイソトープの輸入が開始され,漸次,研究室段階の利用からアイソトープの利用は,医療,工業,農業の各分野にわたり,着実な進展を示した。なお従来,アイソトープは,大学や研究機関が加速器を利用して,部内用に少量生産し,また,理化学研究所が加速器を用いて寿命の短かい核種を生産し,一部市販していたにすぎなかった。しかし,37年8月からは,日本原子力研究所のJRR-1により生産されたアイソトープの販売が開始され,今後JRR-3による生産が,実施されれば国内生産体制がととのうことになる。
 25年にアイソトープの輸入が開始された当初は,当然ながら,基礎研究の分野での利用が主であり,したがって,使用者の大部分は,大学関係の研究者であった。
 その後,アイソトープの出荷件数は,(第5-1表)に示すとおり,次第に増加し,37年度末では,アイソトープ使用の全事業所は約1,000箇所に達している。
 医療関係が,37年に急激に増加したのは,37年度から短寿命のものを月2回渡しにしたためでもある。
 また,水理学におけるラジオアイソトープの利用についてのシンポジウムが,38年3月東京で開催されたがこれは国際原子力機関が,わが国ではじめて開催した国際会議である。この会議は,日本政府の招請で,水資源の研究開発にアイソトープを利用することについて討議するため,同機関加盟国から,水理,地質,土木の専門家およびアイソトープの関係者など,100名以上が参加して開催されたものである。


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