第2章 動力利用
§1 原子力発電

1.国内のエネルギー問題の動向

 あらゆる産業の基礎となるエネルギーについて,わが国は,従来主として石炭,水力等に依存していたが,1950年代に入って,石炭から石油への大幅なエネルギー転換が世界的に行なわれ,わが国でも近年この傾向が顕著となった。すなわち,石炭はコストの面においても使用の便利さの点からも到底石油に太刀打ちできず,電力,鉄鋼,セメント等の石炭の大口消費者が続々と石炭から重油の使用へ切換えた。その結果,エネルギー消費構造に占める石炭の地位はここ数年間に著しく低下し,わが国の石炭鉱業は危機に直面するにいたった。
 このような事情から政府は,石炭,石油,水力等の各エネルギーを含む長期的なエネルギー政策を確立すべきであると考え,37年5月通商産業省の産業構造調査会に総合エネルギー部会を設置した。同部会は各エネルギーについて,需給の見通し,経済性および国際収支への影響等を検討し近くエネルギー政策に対する基本的な考え方に関し中間報告をする予定である。通商産業省が,38年1月同部会に説明した47年度の1次エネルギー供給見通しによれば,(第2-1表)に示すとおり,石炭,石油,水力等から原子力までを含めてのエネルギー供給量は,石炭換算4億300万トンで37年度の推定量の2倍以上になっている。

 これによれば,37年度には,エネルギー供給量中の輸入エネルギーの割合は46%であり,そのうち石油が40%をしめているが47年には,輸入エネルギーの割合は69%に増大し,そのうち,石油が64%をしめるものと推定されている。
 この見通しのように,将来,わが国のエネルギー供給量のうち70%近くも輸入に依存することになると,供給の安定性についての配慮が当然なされねばならない,海外依存度が高いといわれる欧州諸国においてさえ,1960年に欧州経済協力機構の域内におけるエネルギー供給の見通しを発表したロビンソン報告によれば,(第2-1図)に示すとおり,同域内では1975年の輸入エネルギーの比率は約41%にすぎない。


※ 欧州経済協力機構(OEEC)は1961年に経済協力開発機構(OECD)に改組された。


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