第1章 総論
§5 開発体制

2.予算

 原子力関係政府予算の最近5年間の推移は(第1-1図)のとおりである。第1-1図でわかるように金額的には,38年度予算は,従来の80億円前後の水準から100億円の線に近づいた。これを内容的にみても,国産動力炉の開発,高崎研究所の建設,高速増殖炉開発の第一着手としての臨界実験装置の建設,プルトニウム燃料技術開発のための施設建設,燃料再処理工場の設計,日本原子力船開発事業団の設立等,多彩かつ意欲的なもので,懸案事項のいくつかを解決し,原子力の研究開発をその実用化に推進するための基礎が固められつつある。
 このように,38年度予算によって,多くの新規事業がスタートすることになるが,これらの39年度以降における拡充,進展を裏づける予算の拡大が必要である。
 38年度予算の概要はつぎのとおりであるが,その詳細は,付録IIIに示すとおりである。

 (i) 日本原子力研究所
①国内の研究開発機関の参加を求め,将来性の期待できる動力炉について基礎設計から建設まで一貫して行なうプロジエクトを確立するため,38年度は,主として概念設計を行なう。(予算:現金額4,000万円,本件関係定員増4名)

②東海村地区には,すでに原子力諸施設が多数集中しているので,あらたに国産動力炉,材料試験炉およびラジオアイソトープ諸施設の用地として,132万平方メートル(40万坪)を入手することとし,このうち38年度は,33万平方メートル(10万坪)を購入する。  (予算:現金額8,500万円)

③高崎研究所の建設については,37年度にひきつづき,60Coの中間規模試験室,2MeVの加速器中間試験室等の建設を完了せしめるとともに,ラジオアイソトープ工学実験室,モックアップ試験室等の建設を行なう。  (予算:現金額10億5,000万円,債務負担行為額4億7,000万円,本件関係定員増24名)

④原子炉の運転および建設関係については,JRR-1が,従来にひきつづき,定常運転を行なうほか,JRR-2も定常運転に入る。
 JRR-3は出力上昇試験を行ない,JPDRは,38年度には全出力運転に入る予定である。
 また,原子力船における遮蔽の研究を行なうためのJRR-4は39年度中に完成の予定で建設工事をすすめる。
 材料工学試験炉については,従来行なってきた調査研究にもとづき,39年度,に建設に着手することを目標に仕様書の作成を行なう。
 さらに,従来行なってきた高速増殖炉に関する研究を,より本格化するため,高速炉臨界実験装置の建設に着手する。  (予算:現金額11億7,000万円,債務負担行為額1億,6,000万円,本件関係定員増18名)

⑤JRR-3の本格的運転に対処して,39年度中に完成の予定で,ラジオアイソトープ製造設備の建設を行なう。  (予算:現金額2億3,000万円,本件関係定員増3名)

⑥その他研究施設関係として各種原子炉燃料検査のためのホットラボの拡充に着手するほか,プルトニウム特別研究室の内装,再処理試験用ホットケーブの建設,廃棄物処理場増設等を行なう。  (予算:現金額7億4,000万円,債務負担行為額10億1,000万円)各種の試験研究関係については,従来行なってきた研究開発を一層推計することとし,とくに,プルトニウムの研究を本格的に開始する。

⑦このほか,わが国の各原子力研究機関における研究成果を海外に紹介する業務を一層強化する等重要事業の推進をはかる(予算:現金額9億5,000万円,本件関係定員増61名)(原研総予算:現金額59億9,000万円〈24%増〉,債務負担行為額16億4,000万円,うち政府出資現金額56億4,000万円,定員増120名,38年度末合計1,604名)

 (ii) 原子燃料公社
①国産ウラン鉱石を対象とする採鉱,製錬の技術は,今日までの試験によって,一応の成果をえたので,パイロットプラント規模による工業化試験を実施し,将来の本格的生産にそなえるため,この試験工場を人形峠鉱山に建設する。  (予算:現金額4,300万円,債務負担行為額1億2,000万円)

②プルトニウム燃料の研究開発を行なうため,プルトニウム燃料の研究施設等の建設を行なう。  (予算:現金額1億9,000万円,債務負担行為額8億円,本件関係定員増11名)

③1日あたり0.7~1.Oトン程度処理規模の使用済燃料再処理工場の建設を目途とし,これに関する資料購入および詳細設計を行なう。
 (予算:現金額1億5,000万円,債務負担行為額5億9,000万円,本件関係定員増7名)

④核原料物質の探鉱については,37年度にひきつづき,人形峠鉱山および東郷鉱山に重点をおいて,探鉱を実施するほか,山形・新潟県境の小国地域,新潟県三川・赤谷地域等の探査を組織的に行なう。
 このほか人形峠鉱山において,水力採鉱試験を実施する。(予算:現金額2億8,000万円)(公社総予算,現金額16億2,000万円〈18%増〉,債務負担行為額15億1,000万円,うち政府出資現金額15億5,000万円,定員増21名,38年度末合計581名)

 (iii) 放射線医学総合研究所
 放射能調査部門の強化等,従来行なってきた事業をさらに推進するほか,新規事業として緊急時対策に関するプロジエクト研究,養成訓練棟の建設を行なうとともに,外来研究員の受入体制の整備をはかる。
 (放医研総予算:現金額5億3,000万円〈16%増〉,定員増30名,38年度末合計391名)

 (iv) 国立試験研究機関
 各省庁所属の国立機関においては,従来にひきつづき,放射線利用,原子炉工学,核融合反応,放射線標準,放射線障害防止,原子力船の安全対策等について研究を行なう。とくに,原子炉工学の基礎的分野および放射線利用の面において研究の充実をはかる。(予算:現金額5億8,000万円,債務負担行為額7,800万円)

 (v) 民間における研究の助成および研究委託
 原子炉の安全性,事故解析および核融合に関する研究等に対して委託費を,また,軽水型動力炉およびガス型動力炉の開発に関する研究,放射性同位元素の利用の研究等に対して補助金を交付する。(予算:現金額,委託費1億5,000万円,補助金1億6,000万円,計3億1,000万円)

 (vi) 放射能測定調査研究
 核実験にともなう放射性降下物の防護については,従来放射能調査分析および対策研究等の強化をはかってきたが,38年度においても,ひきつづきこれら調査研究等の一層の充実,強化を期するものとする。  (予算:現金額9,200万円)

 (vii) 核燃料物質等の入手
 日本原子力研究所をはじめ大学その他の原子炉,または臨界実験装置等に使用される濃縮ウラン等の購入または借り入れ等のため必要な措置を講ずる。(予算:現金額1億900万円,債務負担行為額5,500万円)(viii)国際協力その他外国の原子力関係科学技術者の招へいおよび外国との科学技術者の相互交流を行なうとともに,科学技術者の海外派遣を積極的に行なうものとする。とくに国際協力を一層効果的に推進するため,欧州に原子力関係に主眼を置いた科学アタッシエを1名増員する。  (予算:現金額4,400万円)

 (ix) 放射性廃棄物処理事業の助成
 放射性廃棄物回収貯蔵業務を,さらに円滑に推進するために必要な貯蔵施設の建設および器具の整備を行なうものとし,このため廃棄物処理事業補助金を交付する。  (予算:現金額900万円)

 (x) 理化学研究所
 理化学研究所が行なう原子力平和利用研究に対しては,従来,委託費または補助金を交付することにより,その促進をはかってきたが,38年度からはこれらの研究に対する予算措置は,理化学研究所の他分野における研究と同様に,政府出資によることとなった。38年度においては,サイクロトロンの建設,核融合反応の研究,アイソトープ利用の研究等を行なう。
 (予算:現金額2億3,000万円,債務負担行為額4億2,000万円)

 (xi) 日本原子力船開発事業団
 38年度から,原子力第1船の建造に着手し,その過程において,総合的な研究開発を行なうこととする。このため原子力第1船の設計,建造および実験運航を主たる内容とする9箇年計画を作成し,その実施を特殊法人日本原子力船開発事業団を設立して行なわせることとする。  (予算:現金額1億5,000万円,うち政府出資額1億円)

 (xii) 原子力発電所立地調査
 原子力発電所の立地調査を従来の図上調査に加え,地質および気象の面から現地について行なうこととする。  (予算:現金額600万円)

 (xiii) 水戸原子力事務所
 茨城県内に水戸原子力事務所を設置し,当該地区の原子力行政事務の実施に万全を期することとする。(予算;現金額900万円,定員6名(うち配置換2名))

 (xiv) 原子力局の一般行政
 従来行なってきた各種行政事務のほか,原子力施設安全対策,国際協力,各種調査企画等を,さらに円滑に行なうため必要な措置を講ずる(予算:現金額1億2,000万円)

 (xv) 各省庁原子力関係行政
 国際原子力機関との折衝,原子力船の規制,原子力発電所の規制等について,それぞれ関係各省庁は必要な行政を行なうが,これらに要する行政費は,関係各省庁の予算に直接計上する。(予算:現金額1億円)


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