第1章 総論

§3 放射線の利用

 わが国における放射線の利用は,12年に理化学研究所のサイクロトロンによりアイソトープを生産し,化学,生物学 の研究に応用したのがはじまりである。その後,第2次大戦により一時中断されたが,25年にアイソトープの輸入 が再開されて以来,急速にその利用がすすみ,医療,工業,農業などの分野で多大の貢献をしている。

 アイソトープを使用している事業所数は,37年度末現在,約1,000箇所に達している。このうち医学関係が最も多く,約3分の1を占めているが今後は,現在試用的段階にある工業分野での利用が増加するものと予想される。このような実情にかんがみ,37年度には,アイソトープ工業利用の実態調査が実施された。その結果によると,アイソトープは各種の業種に利用されているが,事業所数は,大企業の場合でも1社当り1〜2箇所というのが多く,今後,本格的にアイソトープを工程管理などに利用しようとする過程にあるとみられる。
 アイソトープの供給については,現在,ほとんど全量を輸入に依存しているが,国内での生産体制の確立もすすめられている。すなわち,日本原子力研究所は36年にアイソトープ製造試験施設を設置し,JRR-1,JRR-2を利用して短寿命のアイソトープ十数種類の試験製造を開始し,37年8月には,需要者への一部供給をはじめた。
 さらに39年に予定されているJRR-3の定常運転にともない,アイソトープの本格的生産を行なうべく,製造施設の建設がすすめられている。
 一方,放射線利用の新分野として,その将来に大きな期待がもたれる放射線化学については,大規模施設を整備して,従来化学工業界,大学等ですすめられてきた研究結果の中間規模試験を実施するため,日本原子力研究所に,あらたに高崎研究所が設けられることとなった。38年3月に同研究所の建設が着手され,4年間で完成される予定である。同研究所は,38年4月に発足したが,その運営については,産業界の要望をとくに受け入れやすくするよう配慮されており,また,研究員も大幅に民間から受け入れられる。


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