第1章 総論

§2 動力利用

 わが国における原子力発電については,31年に英国から発電炉を導入する方針を決め,その所有と運転のために創 立された日本原子力発電(株)が東海村で電気出力16万6,000キロワットのコールダーホール改良型原子力発電所 の建設をつづけている。また,これについで電気出力1万2,500キロワットの米国製沸騰水型試験用発電炉の建設が ,同じく東海村の日本原子力研究所で行なわれており,近く臨界に達する予定である。
 しかしながらこの数年間,これらにつづく発電所の建設計画は必らずしも予想どおりに捗らなかったが,37年にいたって,日本原子力発電(株)は東海発電所につづく第2号発電所として,米国から導入する軽水型原子炉による発電所を福井県に建設することを決定した。また,これと相前後して,東京,中部,関西の3電力会社が,45年頃までに,それぞれ出力30万キロワット前後の原子力発電所を完成させる計画を明らかにした。
 これらの計画発表によって,原子力委員会が45年までの原子力発電計画の目標としている100万キロワットの実現に,明るい見通しがえられるようになった。
 しかしながら,このような発電計画は,すでに原子力発電が他のエネルギーとの競争上有利であるために計画されたものではなく,むしろその将来の発展性を期待しているものである。したがって,世界的なエネルギー革命の進展,すなわち,固体エネルギーから流体エネルギーへの移行の流れの中にあって,将来のエネルギー需給構造について明確な見通しと総合的視野に立つエネルギー政策の確立をはかることは,原子力発電の将来性を判断する上からも強く要望されるところである。

 政府は,現在総合エネルギー政策を確立するため,通商産業省の産業構造調査会に総合エネルギー部会を設け,各種エネルギーの問題点あるいは長期的な需要構造等について検討を行なっている。
 この部会での審議の過程で明らかにされたところによると,10年後の47年度には,わが国の全エネルギー供給量のうち国内炭の占める割合は現在の26%から19%に減少し,その代りに,現在40%を占めている石油は63%に増加して,輸入エネルギーの比率は約70%に達すると予想されている。
 このようにエネルギーの海外依存度がとくに高くなるわが国としては,当然エネルギー供給の安定性について真剣な考慮をはらう必要がある。
 同じ輸入エネルギーであっても,原子力は,石油に比べて,供給の安定性が高い。それは,石油の供給地の多くが,安定しない地域で,かつ,石油は,大量の輸送を必要とするのに対し,原子力のエネルギー源である原子燃料の供給地は,世界で最も安定した地域であり,しかも,エネルギー当りの原子燃料の輸送量は,石油とは比較にならないほど少量ですむからである。
 また,輸入の不円滑にそなえての備蓄についても原子燃料の貯蔵は,石油に比べてはるかに容易であり,その費用も極めて少額ですむ。
 さらに,エネルギーの供給源を原子力を加えることによって多様化することは,それだけ供給の安定性を増す。
 いうまでもなく,エネルギー政策の最大の目標は,エネルギーの低廉かつ安定的な供給をはかることにあるが,以上述べたように,原子力は,供給の安定性の要請に応じうるのみでなく,さらに,技術の進歩,大容量化等により逐次低廉化し,原子力発電の経済性が確立する時期も遠くないと見込まれる。このような見地から,原子力委員会は,原子力発電の積極的推進をはかることを必要と考え,その具体的な方途について,電気事業者および関係製造業者との懇談の場を持って検討をすすめている。
 発電とならんで原子動力利用の今一つの柱である原子力船の開発については,原子力船専門部会を設けて検討をすすめてきたが,37年6月その第1船として,政府および民間の共同出資による特殊法人によって約6,000総トンの海洋観測船を44年度までに完成すべきであるとの結論をえた。
 原子力委員会はこの答申を受けて,第1船の設計,建造,実験運航を実施する日本原子力船開発事業団を設立することとした。


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