第9章 国際協力

§3 二国間協定の実施

 現在わが国が原子力の平和利用に関して締結している二国間協定は,日米,日英,日加の三協定である。このうち最も古いのは30年に締結された日米協定で(その後協力の範囲を拡大するために33年に改正された)主として米国からの原子炉,濃縮ウラン,重水等の受け入れを予定したものである。これに続くのは,33年に締結された日英協定で,これは英国からの動力炉とそれに使用する天然ウラン燃料の受け入れをおもな目的としたものである。最も新しいのは日加協定で,その締結は35年である。これは,主として自由主義諸国では最大ウラン生産国であるカナダからウラン精鉱(イエローケーキ)を受け入れるためのものである。
 まず,日米協定についてみると,36年度中で注目すべきことは,36年5月19日に署名(即日発効)された特殊核物質賃貸借協定(通称ブランケット協定)である。米国は,周知のように原子力法によって特殊核物質(濃縮ウラン,プルトニウム233U)はすべて国有とされており,政府が外国へこれらの物質を供給する際には,必ず相手国の政府に対して供給しなければならないことになっているので,特殊核物質の授受に当っては,当然政府間における行政協定が必要となる。そこで従来は,濃縮ウランの引き取り一件ごとに行政協定を締結してきたが,これでは非常に時間と手数がかかる上に,交渉が遅延すれば燃料の入手が遅れ,ひいては研究の実施に差支えることにもなりかねない。そこで,日米間における特殊核物質の賃貸借のすべてをカバーする包括的な協定をつくることが希望されるようになり,これが実現してブランケット協定の締結となったものである。ブランケット協定によれは,日本は希望する燃料について,一定の様式の特殊核物質発注書(SpeciaINuclearMaterialOrderForm)を作成し,これに署名して米国原子力委員会に差し出し,先方がこれに同意して署名すればその特殊核物質についての貸借契約が成り立つというもので,これによって手続は非常に簡素化されることになった。ブランケット協定に基づいて,36年度中に日本が入手した濃縮ウランは第9-2表に見るとおりである。
 このほか,末引き取りではるが発注済みのものに,武蔵工大研究炉と原子力研究所軽水臨界実験装置の燃料がある。
 ブランケット協定前の五次にわたる行政協定で日本が賃借している濃縮ウランは,235Uで約26kgであるから,これとブランケット協定に基づく87kgとをあわせると,日本が米国から供給された濃縮ウランは,235Uで合計113kgとなる。これは日米協定で定められた33年12月から10年間の米国の対日供給限度量235Uで2,700kgのほぼ4%にあたる。

 また,37年2月23日には,研究用量の特殊核物質購入協定が署名された。原子炉の燃料以外のいわゆる研究用資材としての特殊核物質は,量が微量であるために,米国はすべてこれを供給するときは売却によるとの方針をとっている。そのため,この協定は特殊核物質の購入に関する日米間での最初の協定(従来のものはいづれも賃借)となった。この協定で日本はプルトニウム(線源,箔に加工されたもの)176g,濃縮ウラン35.01g(235U量)233U,4.13g,プルトニウム(金属)4.2gを購入することになった。
 これらの用途は別表のとおりで,主として,原子炉や臨界未満実験装置のスターターとしての中性子源やフイッションチェンバー (核分裂計数管)に使用される。なお,日米協定第5条に定められた研究用特殊核物質の供給限度枠は次のとおりであり,種類によっては残枠はかなり少くなっているが,一方,国内における需要は急速に増大しつつあるので,早晩この枠を拡大ないし撤廃することが必要となろう。
 また,36年6月に来日した米国,原子力委員会のヴアンダーワイデン原子炉開発部次長は,日本の原子力開発状況を視察したのちに,具体的な研究テーマをあげて,情報,試料の交換,科学者専門家の交流等を内容とする技術協力を日米間で推進したい旨提案した。この提案を具体化するためには必要な予算を確保しなければならない。また,協力の過程で生じた特許権やノウハウの保護など,なお解決すべき問題が多いが,従来の協定に基づく協力関係がとかく燃料機器の授受に限られ,さながら燃料協定の観があったのに対し,この提案は,今後の国際協力の進め方について一つの新しい局面を開くものとして注目すべきものである。日英協定の関係では,日本原子力発電が東海村に建設中のコールダーホール改良型発電炉の完成が近づくに伴い,これに使用する燃料の購入に関しての英国原子力公社との契約締結交渉も本格化するにいたった。

 この契約については,一応,日本原子力発電が暫定的に交渉の当事者となって来たが,36年9月原子力委員会は,天燃ウランについては民有を認める旨決定したので,当然,この契約についても国が当事者となる必要はなくなった。そこで日本原子力発電を正式に燃料購入契約の当事者としてオーソライズすることとし,その旨英国側へも通知が行なわれた。これによって,契約締結交渉も一層円滑化するものと期待されている。
 また,日加協定の関係では,引続きウラン精鉱の受け入れが活溌に行なわれたが,世界的なウランの過剰傾向を反映してか,カナダ以外のウラン生産国からのわが国へのウラン売込みが積極化して来たことは注目すべきであろう。これらの協定非締結国からウランを輸入するためには,改めて二国間協定を結ぶか,国際原子力機関の保障措置を適用し得るように措置を講ずることが必要になろう。
 次に,37年4月の国会において,わが国のメーカーが,外国へ原子炉部品を輸出する場合,その部品が軍事目的に使われるおそれがあると,平和利用に限られているわが国の原子力開発の基本方針に反することになるので,相手国との間に平和利用に限る旨の協定が必要となるのではないかという問題が提出された。これに対して,三木委員長は,今後,わが国から外国へ輸出する核原料物質,核燃料物質,原子炉炉心,および特殊核物質の分離精製装置の四種目については,平和目的に利用されることを確認したうえで輸出を認める旨の原子力委員会の統一見解を発表した。


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