第8章 その他の研究開発

§5 核融合

 核エネルギーの解放は,まず核分裂によってその端緒が開かれ,制御可能の連鎖核分裂反応の実用化を可能ならしめた。他方,太陽エネルギーの根元となっている核融合反応は,いまだ制御できる段階にいたらず,その実用化は,なお遠い将来のことと考えられている。しかし,核分裂とくらべて資源的には豊かであると考えられることと,放射能による危険が減少すること等の理由により,核分裂よりもすぐれたエネルギー取得方法となり得るものとして期待をもたれている。
 核融合エネルギーを平和目的に利用するためには,反応を大規模に起させるばかりでなく,それが人為的に制御可能なものでなくてはならない。
 さらに,核融合反応が起る超高温度を支える仕掛を工夫しなくてはならない。このため,各国で各様の名称で呼ばれる各種核融合反応実験装置が試作され,持続高温プラズマを得る努力がつづけられている。
 わが国における核融合の研究は,大学,国立研究機関および民間企業において行なわれているが,なお,高温プラズマに関する物理現象の解明の域を出ていない。このため基礎研究においては,大学の研究設備を充実し講座を新設するなど,新規着想の育成ならびに研究者養成を行なうにしても,プラズマ科学を総合的,体系的に研究するための中心となる研究機関の設置が望まれるので,学術会議が中心となり,36年度から3年計画で名古屋大学東山構内にプラズマ研究所が設立されることとなった,さしあたり36年度は,計画の初年度として約1.2億円の予算を得て建屋の建設が開始され,また,研究所員の人選も行なわれた。現在の計画では,この研究所は定員63名で,理論,基礎実験,高温発生の3系統の下に,さし当りプラズマ力学,プラズマ物性学,プラズマ制御学,プラズマ力学実験およびプラズマ加熱学の5研究部門が置かれるが,近い将来にプラズマ熱学とプラズマ発生学の2研究部門を加えて,7研究部門に増強されることになっている。また,各研究部門ごとに,1名の大学院学生を共同研究者として受け入れることができる。
 他方,大学における核融合関係研究は,プラズマ研究所を支える母体となっており,この充実も強く望まれている。36年度には,東京大学,大阪大学,東北大学,名古屋大学,京都大学等多くの大学でそれぞれプラズマの発生,測定および基礎理論の研究等が行なわれた。36年度文部省科学研究費のうち核融合関係のものは,第8-2表のようになる。また,日本大学では,原子力平和利用研究委託費の交付を受けて,高温プラズマの分光線幅の時間的追跡装置の試作研究が行なわれた。
 民間企業では,原子力平和利用研究委託費の交付を受けて,昨年にひきつづきプラズマの温度,密度の測定に関する試験研究,プラズマ発生装置に関する試験研究および核融合器壁材料のプラズマに依る損傷に関する研究が行なわれた((第8-3表))。
 このほか,電気試験所では,前年につづいて衝撃電流,放電現象,超マイクロ波,真空技術,電磁界および素粒子等のそれぞれの研究者が,その素地を生かして超高温プラズマの発生と測定の研究をつづけている。

 一方,原子力研究所では,プラズマ入射方式による核融合の研究を行なっているが,36年度には,実験に用いられるプラズマガンの試作が行なわれ,試験調整が行なわれた。これと並行して,プラズマ塊の速度測定装置等のテストが行なわれ,その後,プラズマ塊の全運動量およびエネルギー測定のための装置の製作をつづけている。また,プラズマの理論では,磁場内陽光柱の不安定性と異常拡散について研究が行なわれ,学会などにその成果が発表された。
 36年9月には,国際原子力機関主催による制御熱核融合研究を主眼とするプラズマ物理に関する国際会議が,オーストリアのザルップルグで開催された。この会議は,制御熱核融合に関する国際会議としては世界最初のもので,わが国をはじめとする29ヵ国と6国際機関から508名の科学者が参加した。会議は,この分野において世界各国で行なわれている研究のほとんど全面にわたって最新の情報を網羅したものとなり,盛会のうちに終了した。


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