第8章 その他の研究開発
§2 原子炉材料

2−1 重 水

 減速材,反射材,冷却材として熱中性子原子炉に使用される重水は,特に減速材として極めて優れた特性を持っているので,原子炉開発の初期にはその有用性が高く評価された。このため,政府は,29年度以降総計約2.2億円を費して重水の生産技術の開発を助成してきた。この結果,交換反応法,水の蒸溜法,回収電解法について基礎研究を完了し,これらの方法を組み合わせることにより,年間数トン程度の重水の生産を行なう技術はほぼ確立されている。重水専門部会の試算によると。この場合,既存水電解工場を利用するとして,最大生産量は年9トン,設備建設開始後約20ヵ月で最初の出荷が可能であろうとされ,これにより生産される重水の原価は1グラムあたり25円(金利0,設備17年償却)ないし59円(金利1割設備9年償却と推算された。これは米国原子力委員会の重水売却価格1ポンドあたり28ドル(1グラムあたり約22円)とくらべ約14〜170%高となる。
 35年には,将来の大量生産に備えて水素液化精溜法についての研究が行なわれた。その結果,現在空気分離装置に使用している孔径0.9mmの真鍮製多孔板は,水素の精溜に充分使用できるので,空気分離精溜塔の設計資料を水素精溜塔に応用できることがわかったほか,水蒸気と水素ガスの高温接触交換反応が,アルミナクロミア系触媒で良好に行なわれることが判明し,ここに天然水を資源とし交換反応と水素液化精溜法とを結びつけた,大容量重水製造方式は技術的に可能なことが明らかになった。この方法を工業化するまでには,なお,パイロットプラントで企業化の確実な見通しを立てることが必要とされている。しかしながら,重水製造技術の開発は,国産重水の需要の見通しが立たないまま,36年度以降中断の形となって今日におよんでいる。


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