第7章 規制と防護

§5 放射線防護に関する研究

 放射線防護に関する研究は,放射線医学総合研究所,原子力研究所,国立試験研究機関等において実施されている。
 放射線医学総合研究所においては,物理,化学,生物,障害,臨床等各研究部における固有の研究のほかに,研究の重要性と総合性から,総合研究テーマを設定し,各部の協力のもとに効果的に研究がすすめられている。この総合研究として,36年度には,放射線による影響と栄養に関する研究,低線量による突然変異発生率の研究,14Cの影響に関する研究および緊急時対策に関する研究が実施された。低線量による突然変異発生率の研究においては,これまで25レントゲンの線量まで確認されていた突然変異の誘発率と放射線量との比例関係について35年以来ショウジョウバエを用いて実験が行なわれ,8レントゲンまで比例関係の成立することが確認された。また,原子炉施設の不測の事故に備える緊急時対策に関する研究については,36年度には放射性ガスの定量およびイオン交換等の各種可搬型装置が試作され,緊急時における試料採取,および放射性核種の分析方法の研究が実施されたほか,人体の外部被ばく線量の推定法,特定の放射性核種の吸入および食物による体内摂取過程に関する研究が行なわれた。
 また,各研究部においては,各専門分野における知識を生かして,エネルギー分布および吸収線量の測定,遮蔽効果,分析,生物体に対する作用機構と効果,代謝異常,障害予防薬剤,人体障害等を対象に放射線防護に関する研究が実施された。
 原子力研究所においては,放射線管理室と保健物理研究室等の協力のもとに,36年8月に原子炉災害の解析に関する研究のーつとして,41Arガスを用いて,放射性雲の通過による被ばく線量の測定実験を実施した,この実験は,JRR-2の煙突から約10キユリーの41Arを放出して行なわれ,これによって英国気象局の拡散式および外部被ばく算定法が実用的に使用できることが確認された。
 保健物理研究室においては,36年はじめに完成したヒユーマンカウンターを用いて,内部被ばくに関する研究として40K,137Cs等の核種についての人体放射能の測定,排泄物中の放射性アイソトープによる体内被ばく線量の推定等の研究が実施された,このほか,原子力研究所においては,遮蔽に関する研究,外部被ばくに関する研究,汚染検出および除去に関する研究,放射線モニターおよびモニタリングの方法の開発研究等が行なわれた。
 また,国立試験研究機関においては,消防研究所が35年度にひきつづいて,放射線施設の火災時における放射性物質について適切な処置をとるための研究を実施している。このほか,安全および障害防止のための研究としては,気象研究所の放射性ガス拡散に関する研究,国立公衆衛生院の核分裂生成物による環境汚染の研究,建築研究所の原子力利用施設の放射線障害防止のための設計基準に関する研究,原子炉コンテナーの耐震設計基準に関する研究などを挙げることができる。
 原子力平和利用研究委託費および補助金によって,36年度には,原子炉事故の際に放出される放射性核種の迅速判定法,放射線障害防止用薬剤に関する研究等が行なわれた。


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