第7章 規制と防護
§2 安全基準の検討

2−1 放射線審議会

 原子炉等規制法および障害防止法における放射線防護に関する当初の規定は,世界的に権威を認められているICRPの1953年勧告を基本として作成されたものであるが,ICRPがその後の進歩をとり入れて,1958年に勧告を発表し,また,放射線審議会が,この新勧告に対して,内閣総理大臣に意見書を提出するにおよんで,政府は35年9月に,障害防止の技術的基準に新勧告を原則的にとりいれ,管理区域の設定,放射線作業従事者と管理区域立入り者の区別,放射線作業従事者等の被ばく線量の許容値,放射線施設等の遮蔽,放射性物質の許容濃度等の技術的基準の改正を行なった。
 わが国における平常時の放射線障害防止の規制は,上記2法により放射線作業従事者および管理区域随時立入り者のみを対象にして行なわれており,いわゆる一般人に関する規定はなかった。しかるに34年11月ICRPがMRCの英国原子力公社への答申「原子炉施設の事故の際に,一般公象が摂取する食物の一日あたりの最大許容摂取量」に賛意を示すステートメントを発表したので政府は,この問題が原子炉の設置許可に関する審議上重要な関連を有するとの観点から同ステートメントに関する考え方について,35年2月,放射線審議会に諮問した。
 放射線審議会は政府諮問の検討を行なうため,35年2月の第6回放射線審議会総会において,緊急被ばく特別部会の設置をきめ,また,本部会は専門的に作業をすすめるため,下部組織として資料小委員会および第2小委員会をもうけて,審議を重ね36年7月の第9回総会において結論に達し,8月18日付をもって内閣総理大臣に答申を行なった。
 この答申は実質的には,MRCの英国原子力公社への答申「原子炉事故のために汚染された区域に居住する一般人が,89Sr,90Sr,131Iおよび,137CSの4核種により,汚染されている飲食物の摂取認容レベル」に関する放射線審議会の学術的評価であって,その概要は次のとおりである。
(1) 考慮さるべき核種
 許容摂取量の算出にあたり,緊急事態において,特に考慮すべき放射性核種として, 131I,89Sr,90Srおよび137CSを対象とし,それぞれの問題器官として甲状腺(131I),骨または骨随(89Srおよび90Sr)および全身(138CS)をとりあげたのは妥当と考えられる。
(2) 食生活の相違
 MRC報告では,英国の食物習慣の立場からミルクに重点がおかれているので,わが国では,この食生活の相違点に留意すべきである。
(3) 線量の評価
 線量の評価単位として,90Srは年間線量率をとり,その他の核種については,集積線量をとっているのは合理的である。
 許容摂取量算出の基礎として,甲状腺に対する131Iの緊急被ばく線量を25レムとし,また,全身に対する137CSの緊急被ばく線量を10レムとしたことは安全である。許容摂取量算出の基礎として,骨または骨髄に対する89Srの緊急被ばく線量を集積線量15レムとし,9OSrの緊急被ばく線量を年間線量率1.5レムとしているが,これによる白血病誘発の確率はきわめて低いと考えられる。
(4) 混合被ばく
 MRC報告は,131I,89Srおよび90Srの3核種の混合被ばくについては,ICRPの1958年勧告の考え方によっているが,これら3核種と137Csとの混合被ばくについても,ICRP勧告の考え方によるべきであると考えられる。


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