第5章 放射線の利用
§3 アイソトープの利用

(2) 理工関係

 日本原子力産業会議が36年7月現在で調査した。業種別にみたアイソトープ利用分野の会社数は,第5-7表のように,計測関係99社,ラジオグラフィー86社,トレーサー67社,放射線化学28社,その他47社となっている。利用会社数は,35年5月に行なわれた調査時における253社から327社へと74社増加した。この内訳は,ラジオグラフィー20社,計測関係14社トレーサー9社その他21社となっている,このように新分野への利用をめざして,研究開発の努力が続けられている。
 例えばアイソトープの鉄道交通への応用がある。すなわち,従来のように,比較的短いレールで路線が構成されている場合の車両の通過信号は,レールの一部を電気的に絶縁し,車両の導電性を利用して直接継電器回路をつくる方法がとられてきたが,使用条件がきびしいため,絶縁不良などの故障も少なくない。また,車両の高速化に伴って,長いレールを使用する場合には,非接触型継電器の使用が必要である。そこで,新しい方法として,車両の底部中央に60CO線源をとりつけ,一方,レールとレールの中間に放射線検出器を設置し,車両が通過ずるとき,この検出器で感知する放射線の量の大小によって,通過する車両の種類をきめ適当な信号を各踏切や駅に送る方法が考えられた。このような装置が完成ずれば,軌道設備に多い電磁誘導障害が入りにくく,またガンマ線を使用するので塵埃,雪などによる障害も防止し得るという利点がある。

 原子力研究所の60CO1万キュリー照射室の36年度における利用状況をみると,累計2,526件で,このうち研究所外からの照射依頼は739件であった,なお,従来用いていた線源は源衰したので,11月新たに,60C0 1万6,000キュリーを米国から輸入し,その設置も終了した,
 原子力研究所では,このような施設の開放とともに外部からの受託研究も行なっている。アイソトープ利用の分野では,新潟県の依頼により,アイソトープを使って新潟港の水底漂砂の移動の調査を行なった。新潟港は,信濃川から流れ込む土砂や冬の間強く吹く西風のため,水底で漂砂の移動が激しく,同港の整備を行なうのに大きな障害となっている。原子力研究所では,保健物理部を中心に調査班を作り,8月に60CO合計200ミリキュリーを港口の5ヵ所に散布し,その後,水中ガイガー計数管などを使って漂砂と一緒に移動する60Coの追跡を行なった。さらに11月には,合計500ミリキュリーの60Coを投入し,それぞれ夏季,冬季の漂砂移動の調査を行ない,移動のしかたが定性的にわかった。
 また,工業技術院名古屋技術試験所では,中京地区のアイソトープセンターとして,6月に放射線利用公用実験室を開設し,受託研究,技術指導を行なうほか,3,000キュリーの60Co,7MeV線型加速器,バンデグラーフ等の照射施設も開放している。


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