第5章 放射線の利用
§1 アイソトープの生産

 わが国におけるアイソトープの生産をふり返ってみると,大学や研究機関が加速器を利用して部内用に少量生産していたほか,理化学研究所が加速器を用いて寿命の短い24Na,42K,64Cuなどを生産し,34年9月まで市販していた。
 一方,原子力研究所ではアイソトープの利用を促進するため,安いアイソトープの供給,短寿命アイソトープの供給,アイソトープ供給の迅速化などを目的に,32年にアイソトープ製造研究室を設け,各種アイソトープの製造法の検討を始めた。また,35年5月には製造研究室で確立した製法に基づき,これを本格的生産に移すためアイソトープ製造工場準備室を設置した。
 製造研究室ではJRR-1を用いて,まず需要の多い短寿命の24Na,32P35S,42K,131I,198Au の6核種について,35年度中に各種製造法を比較検討し最良の方法を定めて製造工場準備室に移管し,さらに各種アイソトープの製造法についても研究を行なっている。また,アイソトープ利用の進展に伴って高比放射能のアイソトープに対する需要が増し,原子炉による(n.γ)反応のみを利用する製造法では限度があるので,ホットアトム効果や(n.p)反応などを利用する高比放射能アイソトープの製造研究,あるいはアイソトープの利用目的によっては放射化学的純度が高いと同時に,化学的純度も高くなければならないので,ターゲットからの分離法の研究などを行なうほか製品を定常的に検定する方法の研究などを行なっている。
 製造工場準備室では,36年3月試験工場を完成したが,これはJRR-3を用いて本格的にアイソトープを生産するため準備となるプロセスユニット室の試作および試用を目的としている。36年度は,この試験工場の整備をはかるとともに,JRR-1を用いてアイソトープの生産試験を行なってきたが,この炉の能力での試験は一応終了したので,36年末から新らしく利用を開始した出力の大きいJRR-2を用いて,高中性子束下におけるターゲットの安定性の試験,放射化学的純度の検討,照射済みのターゲット,からアイソトープの定常的な製造試験,民間会社で試作されたコバルトターゲットの照射試験などを行なったなお,JRR-3の利用による本格的生産にいたるまでは,JRR-1およびJRR-2を用いて第5-1表のような計画で国内の需要に応ずる予定である。

 原子力研究所におけるアイソトープの試験生産状況をみると,理化学研究所の加速器による短寿命アイソトープの生産停止により,36年2月からJRR-1を用いて24Naを生産し,これを日本放射性同位元素協会で精製し,市販している。このほかに試験生産したアイソトープは試験依頼の形で研究所内外に無料配布された。その量は35年度中には,8核種,19件,約118ミリキュリーであったが,36年度には第5-2表にみるように16核種,118件,約781ミリキュリーに達した。
 標識化合物の生産については,民間会社で30年から生産を行なっているが,その核種および量は非常に少ない((第5-3表))また36年度から131Iの放射性医薬品の販売が開始され,売上額は約1,900万円に達した。


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