第3章 原子炉
§5 臨界実験装置

5−1 半均質プロジェクトおよび同臨界実験装置

 黒鉛,酸化ウラン(炭化ウラン)系の半均質燃料を使用する高温炉の研究開発は,諸外国においても,たとえば英国におけるドラゴン,米国におけるHTGRなどにより活発に行なわれている。外国の場合,直径が100〜200ミクロンのウラン粒子の粉末を使用しているが,原子力研究所の半均質燃料では5ミクロン以下の粉末を使用するのが特長である。これは,ガス状核分裂生成物をできるだけ抜いて,中性子経済を良くし,かつ不揮発性核分裂生成物をできるだけ黒鉛に捕獲して,再処理を容易にすることをねらっている。

 半均質炉開発の構想は,33年から原子力研究所のプロジェクトの一つとしてとりあげられ,35年5月には半均質炉開発室が設けられ,36年度には前年度にひきつづいて,次の研究が行なわれた。
 (イ) 半均質炉の設計ならびに調査
 (ロ) 半均質炉の炉物理および制御の研究
 (ハ) 半均質燃料に関する研究
 (ニ) ビスマスに関する研究
 (ホ) 黒鉛に関する研究
 (ヘ) 半均質系燃料再処理の研究
 (ト) 半均質燃料要素の伝熱の研究
 とくに,36年1月に臨界に達した半均質臨界実験装置は,36年を通じで臨界量の理論と実験の相関,中性子スペクトルの積分測定,共鳴吸収に関する現象の測定,制御棒の効果の測定等に用いられた。
 36年10月,原子力研究所では,今後のプロジェクトの方針について論議するための半均質炉評価委員会が設けられ,そのために従来行なわれた開発室の調査研究および各研究室の研究結果は,ガス冷却炉,ビスマス冷却炉の場合についてまとめられた。これらの資料を検討した結果,同評価委員会は,37年3月の第5回委員会においておよそ次のような答申を行なった。
 半均質炉開発の現状は,炉概念が必ずしも整理選定されておらずむしろ各種の可能性が平行して考慮されている状態である。今後計画を推進するに当たっては,さらに一段と慎重な検討を加える必要があるが,現段階において判断すると,半均質炉開発の進むべき方向については次の3点に要約しうる。
 (i) 高温炉を指向すべきである。
 (ii) 増殖炉の方向をとることは疑問である
 (iii) 冷却材については,ビスマス関係の資材が十分でなく,現時点の判断では,半均質燃料を生かすにはガス冷却が適当である。
 従って,実験炉建設についての結論は一応保留とするが,保留期間中の研究は,主体を半均質燃料の研究開発におくべきである。なお,現在実施中のビスマス関係の研究は継続するが,その結果をみるまでは新たな拡張を行なうべきでない。
 以上のように,半均質プロジェクトは,36年度に研究体制側からの評価がなされ,実験炉建設についての結論は保留したい旨の態度が表明された。原子力委員会では,これに関し,37年度の原子力開発利用基本計画において次のような指針を示した。
 半均質炉の研究は,前年度にひきつづき,原子力研究所を中心として,プロジェクト研究として総合的に研究開発を推進するものとし,臨界実験装置による炉物理的実験,燃料の研究開発および冷却材としての溶融ビスマスについての研究等を行なうとともに,燃料の照射試験,ガス冷却方式の研究を推進する。
 この結果,原子力研究所では,37年度には,半均質炉の設計および調査,半均質燃料の研究,半均質燃料における核分裂性生成物の挙動の研究,液体金属の伝熱と流動の研究,ヘリウム中の不純物およびガス状核分裂性生物除去の研究等を行なっている。


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