第3章 原子炉
§2 研究用原子炉

2−3 民間企業

 (1) 日立研究炉
 日立製作所は,教育訓練用原子炉の国産化をはかるため,政府から,33年度および34年度に総額2,077万円の原子力平和利用研究費補助金の交付を受けて,35年度から研究炉の試作にとりかかっていたが,この炉は36年12月25日に臨界に達した。
 本研究炉は,プール付タンク型と称せられる熱出力100kWの原子炉で,川崎市王禅寺の東京原子力産業研究所(TAIC研)株式会社内に建設された。35年5月,内閣総理大臣から原子炉設置許可が与えられて以来,36年には炉本体の据付工事,各種試験検査が行なわれ,12月に完成した。この炉は燃料加工をはじめすべて国内の技術で作られたものであり,建設は順調に進行した。37年5月現在性能検査が行なわれている。
 本原子炉の特徴は,水泳プール型とタンク型の両者の特長を兼備した設計およびセラミック燃料にある。前者については,冷却水を強制循環し,出力を高くするために,炉心タンクと実験用プールとが隔壁によって分離されている一方,プール側の有効放射線量の減少を防ぐため,隔壁には,特別な工夫がほどこされている。燃料は,10%濃縮ウランセラミックをペレットにし,アルミニウム被覆管中に詰めたもので,この形の燃料が国内で加工され,原子炉に使用されたのははじめてである。
 この原子炉は,東京原子力産業株式会社の出資によるTAIC研の敷地内に日立製作所が建設したものであるが,性能試験合格後は,同TAIC研に譲渡され,核物理実験,遮蔽実験,放射線化学の研究,アイソトープの生産,原子力技術者の教育訓練に使用されることとなっている。
 なお,本原子炉の建設費は約1.4億円といわれている。

 (2) 東芝研究炉
 東京芝浦電気でも,原子炉製作技術の研究のために,総額1,800万円の原子力平和利用研究費補助金の交付を受けて,35年夏から原子炉を建設中であったが,37年3月13日臨界に達した。
 この研究炉は,水泳プール型熱出力常時30kW(最高100kW)の原子炉で,川崎市末広町の日本原子力事業総合研究所(NAIG研)内に建設された。35年5月,内閣総理大臣から原子炉設置許可が与えられて以来,36年前半に建屋工事が完了し8月に炉本体工事がはじめられ,37年3月に完成した。建設にあたっては,本原子炉が教育訓練を主目的とすること,敷地条件が比較的不利であることにより,工事および炉本体工事には諸種の考慮がはらわれた。炉本体工事にはいってからは,現地工事量を少なくするように配慮され,工事は非常に順調に終了した。37年5月現在,性能検査が実施されている。
 本原子炉は,典型的な水泳プール型原子炉で,燃料には20%濃縮ウランを用い,炉心は縦6m,横1.8m,深さ7.6mのプール中に吊り下げられ,レールによって移動できるようになっている。設置者は東京芝浦電気で,運転管理は,東芝中央研究所原子炉分室が行ない,原子力技術者の教育訓練,原子炉材料の試験,原子力関係機器の研究,アイソトープの生産,放射化学の研究のために使用される。
 なお,原子炉の総工費は,約1.5億円といわれている。

 (3) 三菱電機研究炉
 三菱電機は,かねて三菱原子工業株式会社(MAPl)と協同して研究炉を設置する計画を検討中であったが,37年1月,内閣総理大臣に対し原子炉設置許可申請書を提出した。5月現在,原子炉安全専門審査会が安全審査中である。
 この原子炉は,いわゆるタンク型で,連続最大熱出力30kW,燃料は13%濃縮ウラン,平均熱中性子束は3×1011 n/cm2secである。直径1.5m,高さ4.5mのアルミニウム合金製の炉心タンクが,コンクリートの生体遮蔽体中に埋め込まれ,タンク底部に炉心部が固定される。タンク上部には,上部遮蔽体が挿入されるが,100W以下の低出力運転時にはこれを取り除いて,タンク上面近傍まで水を満たすことができるようになっている。この場合は,水泳プール型の特色もある程度かねることができる。100W以上の運転時には強制循環により冷却され,100W以下では自然循環である。制御棒は下部駆動方式である。
 燃料要素には,ペレット燃料棒およびスエージ燃料棒が使用される。被覆管はいずれもアルミニウム製である。実験設備としては,回折実験用中性子取り出し装置,指数実験用上部熱中性子柱,側部熱中性子柱,実験用水タンク,その他各種の実験孔が設けられる。
 この原子炉施設の設計,製作および運転に関する業務は,三菱電機とMAPIが協同して行ない,燃料はMAPIが加工する。設置場所は,東海村字舟石川(原子力研究所北西5km)が予定されている。建設費は,土地費を含めて約4.6億円である。実験設備の一部には,政府からの原子力平和利用研究費補助金によるものが含まれる。建設工事は16ヵ月で完了し,38年10月に臨界に到達することとなっている。

 第3-2表に,わが国の研究炉の実験設備を示した。実験設備の種類や数は炉型によって異るが,近畿大学の炉を除いて,いずれの炉にも共通した設備は,実験用もしくは照射用の水平実験孔,熱中性子を利用するための熱中性子柱,試料を短時間照射するための気送管である。JRR-3の水平実験孔,垂直実験孔およびアイソトープトレイン数が多いのは,同炉の主目的が国内むけのアイソトープの生産にあるからである。


目次へ          第3章 第3節へ