第2章 機構,法制および予算
§3 予 算

3−2 37年度予算の概要

 37年度における原子力予算として,総額80.4億円(債務負担行為額15.2億円)が認められた。これは前年度に比較して総額で36億円の増加となっている。29年度にはじめて原子力予算が計上されて以来,ようやく80億円台に達した訳であるが,項目別にみる増加分は,主として一般管理費,核燃料購入費等の自然増加にもとづくものであり,建設費,施設整備費は幾分減少し,試験研究費は,おおむね前年度並みにとどまった。しかしながら,放射線化学中央研究所を設置するための経費が新たに認められたことは,新長期計画に盛られた多彩な研究開発事業の具体化の前触れであり,核燃料購入費および廃棄物処理事業に対する助成金の増額も,今後の研究開発を円滑に進めるための布石であると言える。また,核爆発実験の再開に対処して,放射能の測定調査研究に必要な経費が,前年度に比して大巾に増額されたことも,本年度予算の特徴の一つである。
 37年度原子力予算の内訳は(付録2-1表)のとおりであるが,主な内容は次のとおりである。

 (1) 日本原子力研究所
 放射線化学の工業化中間試験研究のため,放射線化学中央研究所を設置することとし,37年度には,60CO大線源等各種施設の建設を行なう。このための予算として,一般管理費を除き1.6億円(債務負担行為額7.7億円)を計上している。
 原子炉の運転および建設関係については,JRR-2が出力上昇試験を経て定常運転に入り,またJRR-3は,37年度前半に低出力試験運転を行ない,後半に出力上昇試験を行なう。
 軽水冷却型動力試験炉としてのJPDRは37年度末までに建設を完了,試験運転に入る予定である。
 また,原子力船における遮蔽の研究を行なうためのJRR-4は,38年度末に完成の予定で建設工事を進める。
 これらの原子炉の建設,運転のための予算として,15.1億円(債務負担行為額2億円)を計上している。
 各種の試験研究関係については,物理,化学,工学,放射線利用,プラズマ工学等の研究を一層推進することとし,特にプルトニウムの研究を本格的に開始し,また,原子炉開発に必要な研究およびその他の研究の一層の効率化を図るため,大型電子計算機を設置することとしている。
 JRR-3の本格的運転に対処し,アイソトープ製造試験工場の建設に着手する。
 その他研究施設等の建設関係として,プルトニウム研究室,ホットケーブ,再処理試験室,廃棄物処理場増設等の建設を行なう。
 研究業務を円滑に推進するために,37年度の定員1,347名を,役員1名,職員136名増員して,年度末においては役員を含め,1,484名とした。
 以上の事業を遂行するため,37年度総事業予算として48.5億円(債務負担行為額14.3億円)を計上し,うち44.9億円(債務負担行為額14.3億円)を政府が出資する

 (2) 原子燃料公社
 36年度に引き続き人形峠および東郷鉱山に重点をおいて探鉱を行なうほか,山形,新潟県境小国地城,新潟県三川赤谷地域等の精査を組織的に行なう。
 人形峠鉱山においては,二段採掘試験を実施するとともに,洗鉱試験中間規模プラントの建設を行ない,実験を実施する,また国内原鉱をもつて粗製錬を行なうとともに,36年度に引き続き主として輸入イエロケーキをもって,中間規模の精製錬試験を行ない,一層の技術の向上をはかる。
 とくに後者については,設備を増強,改善して能率化し,金属ウラン約15tを生産する予定である。
 35年度から発足した検査技術開発室において,完成燃料体についての検査技術の開発につとめる。
 また,36年度に引き続き,再処理関係の管理分析技術の開発,再処理工場建設予定地買収,再処理工場建設関係調査等再処理事業のための準備を行なうとともに,再処理基礎試験装置を建設して,原子力研究所と共同研究を行なう。
 以上の事業を推進するため,37年度総事業予算として13.5億円を計上し,うち12.5億円を政府が出資することとした。定員も役員を含め34名増員して560名とした。

 (3) 放射線医学総合研究所
 36年度に引き続き放射線障害の防護,治療等の研究を進めるとともに,本年度から新たに,放射線障害に対する薬学的研究を拡充するため,薬学研究部を新設し,また,フォール・アウトに関連する研究態勢を整備するとともに放射能調査等の万全を期するため,放射能検査の充実をはかる。
 さらに,質量分析等研究機器および動物舎等を整備して研究を推進する。
 以上の業務の円滑化を図るため4.8億円を計上し,人員も46名を増員したほか,さらに21名を定員化し,総計361名とした。

 (4) 国立研究機関
 各省庁所属の国立研究機関においては,29年度以来,原子力平和利用の各種試験研究を行なっているが,37年度には,原子炉材料,原子力船,核融合反応,放射線利用,放射線測定,放射線障害防止,安全対策等について研究を推進する。
 特に運輸技術研究所においては,原子力船の安全対策研究の一環として,原子炉系,冷却系,コンテーナ等の溶接構造の非破壊検査の研究のため,ベータトロンおよびテストリグを設備する。この研究のため6,790万円を計上している。また,農林省食糧研究所においては,新たにヴァン・デ・グラフ加速器を設置して,農水産食品等のベーター線照射による保存,加工等の研究を行なう。この研究のため2,450万円を計上している。
 これら国立試験研究機関における試験研究のため計上された予算は総計6.5億円である。

 (5) 補助金,委託費
 原子炉およびこれに関連する機器,材料の国産化のための研究,核融合に関する研究,原子力船に関する研究,原子炉の安全性に関する研究,ウラン濃縮の研究,放射性同位元素の利用の研究等を推進するため,補助金1.5億円,委託費1.5億円,計3億円を計上し,また,核原料物質の探鉱奨励金として450万円が計上されている。
 このほか,放射性廃棄物回収貯蔵業務をさらに円滑に推進するために必要な一部器具備品の購入整備,および新たに九州地区において回収貯蔵業務を開始するため必要な施設器具備品の整備のため,廃棄物処理事業補助金730万円が計上されている。

 (6) 放射能対策調査
 核爆発実験の再開に伴う放射性降下物の防護については,とりあえず36年末予備費の支出により放射能調査分析および対策研究等の強化を図った。しかし放射性降下物の影響の長期化に対処して,37年度においても引き続きこれら調査研究等の一層の充実強化を期して,関係予算として7,580万円を計上している。

 (7) 原子力施設周辺環境調査
 東海村原子力施設周辺の環境調査および万一の事故時に備えてモニタリング・カーを設けることとし,予算として910万円を計上した。

 (8) 核燃料物質の購入等
 原子力研究所はじめ大学,その他の原子炉および臨界実験装置等に使用される濃縮ウラン等の購入,または貸借等のために必要な経費として5.3億円(債務負担行為額8,800万円)を計上した。

 (9) 国際協力その他
 外国の原子力関係科学技術者の招へいおよび外国と科学技術者の相互交流を行ない,国内科学技術水準の向上を図るとともに,36年度に引き続き科学技術者の海外派遣を積極的に行なうための必要な計費を計上した。
 原子力局の定員については36年度の143名を6名増加して149名とし,原子力行政事務の増大に対処するとともに,新たに放射能課を設置し,放射能対策業務を強化する。
 また,原子炉安全対策事務,放射線障害防止のための検査事務,国際協力関係事務,各種調査企画事務等を強力かつ円滑に行なうため必要な予算を計上した。

 (10) 各省庁原子力関係行政費
 関係各省庁の行政費として,外務省における国際原子力機関のために必要な経費等1.0億円を関係各省庁の予算に直接計上した。


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