第2章 機構,法制および予算
§2 法 制

2−1 原子力損害賠償制度の施行

 36年3月1日に第38国会へ提出された原子力損害賠償二法案,すなわち,「原子力損害の賠償に関する法律案」および「原子力損害賠償補償契約に関する法律案」は,同年5月18日衆議院,同6月8日参議院で原案どおり可決成立し,同6月17日公布された。
 賠償法附則第1条によれば,同法は公布の日から起算して9月をこえない範囲内において,政令で定める日から施行することとされていた。
 原子力局では,直ちに上記二法のそれぞれの施行政令案の立案に入った。賠償法の施行政令で規定すべき事項は,(1)核燃料物質の再処理,加工および使用のうち「原子炉の運転等」に含めるべきものの範囲を定めること,(2)損害賠償措置の具体的な金額を定めること,および(3)原子力損害賠償紛争審査会に関する規定を制定することの三つであった,(1)に関しては,加工および使用については,濃縮ウランで一定量(濃縮度5%未満のものは2,000グラム,5%以上のものは800グラム)以上のものを対象とする行為とし,再処理については,当分の間除外することとした。(2)に関しては,おおむね従来の規制法による暫定的制度上の金額を踏襲して,原子炉については,熱出力により1億円,5億円および50億円とし,新たに熱出力1キロワット以下のものについては1千万円を規定し,また,核燃料物質の加工,使用および運搬については1千万円および1億円の措置額を定めた。(3)に関しては将来の問題として,とりあえず規定しないこととした。
 次に,補償契約法の施行政令案では,(1)補償契約の補償料率を定めることおよび,(2)法律で規定するもの以外の補償損失の範囲その他の細目的内容を規定することが予定されていた。(1)については,原子炉設置の際の技術的規準,広島,長崎の原爆被害の実態および国の事務取扱費用等を根拠として科学的に算定し,1年間当たり万分の五と定めた。(2)に関しては,津波による原子力損害を補償損失としたほか,正常運転の定義,政府に対する通知事項,補償料の納付期日,補償金の支払方法,補償金の返還方法,契約の解除事由,過怠金の徴収事由,過怠金の額等について,それぞれ必要な規定をおいた。
 政令案についての各省との意見調整は,37年2月にほぼ原子力局の原案どおりに完了した。その結果,賠償法の施行期日を37年3月15日とする政令および上記二施行政令は,37年3月2日の閣議で決定され,同3月6日公布された。また,損害賠償措置の承認申請方法等につき規定した「原子力損害の賠償に関する法律施行規則」は,同月13日公布され,補償契約の具体的内容をなす「原子力損害賠償契約約款」は,同月12日の科学技術庁庁議で決定された。かくして,関係法令の準備は完了し,原子力損害賠償制度は37年3月15日から施行された。
 制度の施行に伴い,日立製作所から原子炉の運転および臨界実験装置に使用する核燃料物質の運搬,使用,加工に関する補償契約の締結の申込みがあり,科学技術庁長官は締結に応じた。日立製作所は,これらの補償契約および別途締結していた原子力損害賠償責任保険契約をもって,賠償法第7条の規定による損害賠償措置の承認の申請を行ない,長官はこれらを承認した。すでに原子炉の運転等を行なっているその他の原子力事業者についても,上記施行日後3月間の猶予期間中に,同様の措置を行なうことが要求されている。


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