第6章 原子力発電

§1 諸外国の原子力発電計画

 (1) 米 国
 米国の原子力発電所建設は1959年に発表された「非軍事用動力炉計画」に示されている目標,すなわち,まず1968年までに化石燃料の高い地域において原子力発電所が経済的に建設できるように,そのコストを引き下げ,さらにそれ以後に,より広い地域において原子力発電所を建設できるようにすることを目標として進められている。政府はこの目標達成のために実験炉,原型炉による発電所は政府自身で,または民間会社等との協力で建設し,大規模商業用発電所の建設は民間会社に一任し,政府はこれに援助を与える政策をとっている。
 現在までに運転されている原子力発電所は実用規模のシッピングポート(6万kW),ドレスデン(18万kW),ヤンキー(11万kW)各発電所を含め6カ所計約37万kW,また1961年から1963年の間に運転に入るものは,14ヵ所計約62万kWと,シッピングポートとヤンキーの両発電所の出力増加分計66,000kWあり,63年末には,20ヵ所約101万kWになる予定である。

 (2) 英 国
 英国は1955年に,1965年までに150〜200万kWの原子力発電計画を発表,ついでスエズ動乱を契機としてエネルギー供給面の安定のため1957年にはこの発電能力を500〜600万kWまで拡大した。その後資金事情の逼迫によりこの期間は1年延期された。その後石炭,石油の供給が世界的に好転し,また火力発電コストが予想より安くなったこと等により1960年に更に変更され,1968年までに500万kWとなった。
 現在英国ではコールダーホール(14万kW)およびチャペルクロス(14万kW)各発電所が順調に運転されている。このほかに建設ないし計画中の発電所は9ヵ所計約460万kWある。

 (3) カナダ
 カナダのエネルギー源は豊富であるが。地域的に偏在しており。大工業地帯では近い将来手近な所から必要量のエネルギー源の入手は困難と予想されている。このような地域に原子力発電所を建設することが計画されており。重水減速炉による発電所の開発が進められている。
 現在2万kWのNPD発電所が1961年完成予定の下に建設中である。このほか実用規模の20万kWのダグラス発電所(後に20万kWの増設予定)が1960年建設を開始した。さらに有機炉および軽水炉による小型発電所各1ヵ所ずつを計画している。

 (4) フランス
 フランスでは原子力発電計画として,1965年までに黒鉛減速天然ウラン炉(85万kW),重水減速天然ウラン炉(EL4.10万kW)および濃縮ウラン炉(ユーラトム米国協定によるフランス,ベルギー共同,25万kW)で約120万kWを開発し,その後3年ごとに倍増し,1975年までに約800万kWの発電所を建設することが予想されている。
 発電所建設は第1次(1952年〜1956年)と第2次(1957年〜1961年)5ヵ年計画で進められている。第1次計画によりGl,G2およびG3のプルトニウム生産炉による発電計画は合計出力5万kWで送電している。第2次計画ではフランス電力庁が原子力委員会の援助の下に,EDF1,EDF2が建設中で,EDF3,EDF4が設計中である。
 またフランス,ベルギー共同の発電所は,ユーラトム―米協定により米国の資金と技術援助を受け,ベルギーとの折半出資によるものでまだ建設に至っていない。

 (5) その他の西欧諸国
 英国をはじめ西欧諸国では1956年7月のスエズ運河の接収にはじまる動乱によって中近東からの石油の輸入がとだえ,エネルギー不足になやんだ。幸い動乱は短期間に終ったが,西欧諸国は中近東石油依存の危険性を感じ,原子力発電を重視するようになった。ユーラトムでは1967年までに1,500万kWの原子力発電計画を発表した。その後ベネズエラ,サハラ,リビヤなどで石油が発見され供給源確保に明るい見通しがもたされ,1960年にユーラトムは原子力発電計画を1970年までに1,000万kWに縮小した。
 現在英仏を除いた各国では,ドイツに15,000kW発電所が完成したほか,建設中のものは,イタリアの35万kW,ベルギー11,500kW,スゥエーデン1万kWがある。このほか計画では上記4ヵ国のほか,オランダ,スペイン,スイス等を含めて約200万kWに達している。

 (6) ソ連および東欧諸国
(イ) ソ 連
 ソ連では第20回の党大会において,1956年に始まる5ヵ年計画として,各種形式の炉による200〜250万kWの原子力発電計画を決定した。この計画は技術的困難と発電コストが高いためのびのびになり,1959年の第21回党大会において期間を1965年までに延期した。
 現在ソ連にはAPS-1(5,000kW)およびシベリアン発電所(10万kW)が運転されており,このほかにオブニンスクに2,OOOkWの発電所が1958年に完成予定となっていたが確認されていない。さらに建設中のものには1962年に完成予定のものが2ヵ所計41万kWあり,計画中のものは新増設併せて7ヵ所158万kWおよび35,000kWthのものが1ヵ所ある。

(ロ) 東欧諸国
 東欧諸国における原子力発電所の建設はいずれもソ連の援助によって行なわれており,炉型は天然ウランガス冷却炉である。
 チエッコスロバキヤでは1970年までに約10ヵ所の原子力発電所の建設により500万kWの発電計画があり,最初の10万kWの発電所が建設中である。
 東ドイツでは7万kWの発電所を建設中で1961年完成予定であり,この発電所は後に15万kWに増加が計画されている。この他に10万kWの発電所が1964年完成を目指して建設中である。
 ポーランドは第2回のジュネーブ会議の際,1975年までに80万kW,1975年までに180万kW,またハンガリーは同会議で1975年までに50万kWの発電計画を発表した。

 (7) インドおよび極東諸国
(イ) インド
 インドでは急速な経済発展が予想され,現在,発電設備は600万kW程度あるが,25年後には約5000万kWが必要とみられている。石炭資源も少なくはないが1地方に偏在し,輸送が困難であり,また水力資源も開発が困難で経済的でないことから原子力発電に熱意を持っている。さらに原子力発電ではインドに豊富なトリウムを活用できるので相当期待されている。
 原子力発電計画としては,第3次5ヵ年計画で100万kWが計画されている。現在ボンベイ周辺に30万kW発電所を計画中で。1号炉は1964年に,2号炉は1965年に完成するよう準備が進められている。

(ロ) 極東諸国
 極東諸国では電力の需要に対して包蔵水力が多分にあるので,原子力発電を早急に必要としていない。しかし1968年までにフイリピン(出力不明),タイワン(10〜15万kW)および韓国(75,000kW)が原子力発電所の建設を考慮中といわれる。


目次へ          第6章 第2節(1)へ