第5章 原子炉

§5 熱伝達回路の研究

(1) 軽水冷却方式
 この方式については民間企業と原子力研究所において,2相流動熱伝達等について研究が進められている。
 原子力研究所では,水と空気による垂直上昇流の実験装置を製作し,水-空気2相流の流動様式を調べ,これが水および空気の各流量によってどのように変化するかを定量的に測定し,続いて2相流の圧力損失,ボイド等について研究し,2相流における流動と熱伝達の関係を求める研究が進められている。
 また,核沸騰による高い熱伝達率の機構を解析するため,蒸気の発生機構および蒸気泡の成長機構について研究が進められている。この研究では,蒸気泡の成長を支配する温度境界層,表面状態等について測定が行なわれている。
 一方,民間企業では,非定常時の沸騰熱伝達の研究および種々の寸法の模型燃料要素による熱伝達の研究が進められている。また,舶用沸騰水型原子炉の動揺時におけるボイド分布の変動による出力振動等の安定性への影響について,電熱式模擬燃料棒を用いて軽水温度270°C,圧力70kg,cm2の下で研究が行なわれている。

(2) ガス冷却方式
 この方式については,民間企業と原子力研究所においてフイン付管の伝熱流動実験が進められている。
 原子力研究所では,横ヘリカルフィンについて実験用風洞を用いて研究が行なわれ,フィンピッチが熱流動特性に与える影響については,フィンピッチが小さくなる程熱伝達率が上昇するが,レイノルズ数が大きくなるにつれて熱伝達率の値は一定値に近づくこと,フィン付管摩擦損失係数に対して,粗管の摩擦損失と同様な概念の適用が可能であること,単位ポンプ動力当りの熱出力はフィンピッチ,フィン高さの小さい程大きくなるが,フィン重量を考えに入れた場合,フィンピッチと高さの比が2.5分の1附近が最適値であること等が解った。引き続いて切削プレートフィン,および肉厚フィンについて実験が進められている。また,複合フィンについても研究が行なわれ,区画板すき間の値が,特性にかなり影響することが解った。また,管軸方向に正弦状分布の熱負荷を加え円管内乱流の温度分布を求める研究が行なわれている。
 一方民間企業では,改良コールダーホール型フィン付燃料要素についての伝熱および流動に関する研究が実物試験によって行なわれている。

(3) 液体金属冷却方式
この方式については民間企業と原子力研究所の共同研究により,ナトリウムおよびナトリウムカリウムについて研究が行なわれてきた。
 これまでの研究では,熱伝達率は理論による推定値より小さく,この原因については管壁と流体間の濡れであるとか,含有酸素量の影響であるとかいわれているがまだはっきりしたことは解っていない。したがってまず,これらの原因について研究することとなったが,このためにはナトリウムの取扱操作上の技術を解決する必要がある。このため,電磁流量計および電磁ポンプの特性試験が行なわれ,引続いて管内凝固ナトリウムのふるまいについて研究が行なわれた。これは,液体金属冷却炉コンポーネントにおけるフリーズ・シールの基礎的なデータを得ることを目的としている。これまで発表されているところでは,フリーズ・シール法はナトリウム流体のシールには有効であるが,系内のカバーガスに対して6は気密性が悪く,可動部のシールに用いる場合,比較的大きな抵抗となることが報告されている。
 このほか,原子力研究所では,ビスマスのガスリフトによる循環の可能性を調べることとなり,ビスマスへの気体の吹込の際には水の場合と異なった現象が予想されるので,小型ガラス製装置を作製し,2相流動の研究の1つとして,水銀で実験が行なわれた。ついで金属製ループを用いてアルゴンガスによるガスリフトの実験が行なわれ,ガス流量の水銀循環量におよぼす影響を調べた結果,水銀循環量はガス流量の3分の1乗に比例するという結果がえられた。


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