第5章 原子炉
§2 研究用原子炉

2−1 原子力研究所

(1) JRR-I
 JRR-1は32年8月臨界に達して以来,順調な運転を続け,35年4月に総熱発生量5万kW時に達した.この間,短寿命核種アイソトープの製造試験,金属・無機材料・高分子物質・種子類等に及ぼす放射線の影響,放射化分析等の研究に利用された.これらの照射および実験等の共同利用件数は,所内2,436件,所外543件で,所外の団体別利用件数は,大学関係53%,国立試験研究機関その他30%,民間企業17%となっている.また,原子炉短期運転訓練講習会が33年9月から35年4月までに10回行なわれた。
 一方,この数年の間に炉内酸素圧力の低下,反応度の異常低下,出力指示の不正確化,出力40kW,以上における出力の不安定等の問題も生じてきたので,・総熱発生量5万kW時を期として,再結合器水および燃料溶液の取出し試験を行なうこととなった.このため35年4月より低出力運転にはいり,各種特性の測定を行ない,5月に至って運転を停止した。
 その後,6月に再結合器水の取出しが行なわれた.分析の結果,ごく少量の燃料溶液が炉心から移行してきていること,また若干の腐蝕があったことなどが判明したが,問題となるほどのものではなった.また最初に再結合器にいれた水11.2リットルのうち約2.5リットルが炉心に移行していることが判明した.。
 ついで7月燃料溶液の取出しを行なった.検討の結果次のようなことが解った。
(1) 酸素圧低下現象の原因は炉心タンク壁の酸化によるものである.この現象が現在ではすでに見られないことからして,今後炉心タンク壁の酸化が急速に進んで危険な状態が生ずる可能性は少ない。
(2) 反応度減少の原因については,燃料溶液の炉心からの移行,U04の沈澱,再結合器から炉心への水の混入等によるものであろうと推測されていたが明確な結論が得られないので,さらに今後の検討を要する。
(3) 出力指示は,中性子検出によるものが正確である。
(4) 高出力時における出力の不安定については,UO4の浮遊によるものであろうと推定されていたが,これは原因でないことが解り,さらに今後の検討を要する。
 このように再結合器水および燃料溶液の取出し試験を終え,9月には炉の運転が再開され,10月には共同利用が再開され,原子炉運転短期訓練講習会も9月,12月,1月それぞれ行なわれた。

(2) JRR-2
 原子炉本体については34年末その組立を一応完了した.燃料要素については原子炉製造業者AMF社が原子力研究所の委託により,燃料加工業者M&C社の加工した燃料要素22本の検査を行ない35年3月検査に合格したが,その後にいたって燃料板のウランーアルミ合金中に介在物の存在することが発見された.このため原子力研究所では,これが原子炉の出力上昇に及ぼす影響を検討することとなり,CP-5型原子炉を開発した米国アルゴンヌ国立研究所の意見を聴取する等種々検討を行なった結果,22本のうち19本の燃料要素は初期の運転に支障を及ぼさないと判断した.一方,原子力研究所に燃料検査を委託していた政府もこれを認め,8月に米国側より19本の燃料要素の受取りを行ない35年10月1日15本の燃料要素で臨界に達した.当初計画では8本で臨界に達する予定であったが,臨界計算に際して複雑な原子炉構造を簡略化して計算に取入れたため,(1)炉心重水タンクの周囲に設置されている軽水熱遮蔽の反射体効果,(2)制御棒等のボイド効果,(3)燃料支持板とその補強金具および臨界実験時に中央実験孔内に置かれていた重水容器等の影響,等の点が計算式に十分反映していなかったため臨界到達のために倍近くの燃料が必要になった。
 その後,きたるべき出力上昇に備えて,低出力運転により,各燃料要素の反応度,中性子束分布,制御棒効果,温度効果,実験孔効果等の各種特性の測定試験を行なった.一方出力上昇にあたっての最も大きな問題は,燃料要素のウランーアルミ合金中にウランまたはウラン・カーバイトと思われる密度の大きい小介物が存在するために,燃料要素が破損し多量の核分裂生成物が,重水中に放出される可能性があることである.この点について原子力研究所で十分検討した結果,1,000kW程度の出力運転は安全であるという結論に達したが,安全のため,燃料破損を検出するための測定装置を増設し,また,米国アルゴンヌ国立研究所からコンサルタントを招へいして,慎重を期した。
 このような準備の上,36年3月6日から出力上昇試験を開始し,3月22日出力1,000kWの運転に成功した.その後,4月21町こは原子力施設検査官による原子炉の性能検査が行なわれ,出力1,000kWについて検査に合格した。
 しかし,今後出力を設計値1万kWに近づけるためには,90%濃縮ウラン燃料を使用する方が.燃料中の介在物の発生を防止する点からも有利であるため第2次装荷燃料として90%濃縮燃料を採用することを考慮している。

(3) JRR-3
 JRR-3は国産1号炉として34年1月より,建設が開始され,34年度中に建屋がほぼ完成し,炉本体工事が35年1月より開始され,35年3月末までに炉本体下部基礎および熱遮蔽タンクの据付けが行なわれた。
 その後,4月末,関係各社と協議の上全工程を最終的に決定し,それにしたがってその後順調に工事が進められた。炉本体工事では,熱遮蔽タンクが7月に,生体遮蔽内配管類が9月にそれぞれ完成し,その後生体遮蔽重コンクリートの打設を行ない,12月完了した。また,黒鉛積み工事が36年2月に,上下段遮蔽体の挿入が3月に完了した。冷却器関係では,重水系,He系,緊急冷却系の一部を除き熱遮蔽系,2次冷却系,炭酸ガス系および給排水系の主要工事を3月までに完了した。各計測制御系,RI製造設備等については主要部品の現地搬入を完了し,現場据付工事が行なわれている。なお,燃料については,35年5月にAMFカナダ社と原子力研究所との間に,金属天然ウラン約7トンの燃料棒加工契約が成立し,36年3月には加工済燃料が原子力研究所に到着した。これらの燃料棒は(株)日立製作所において,冷却管等の取付加工が行なわれることになっている。なお炉の臨界予定は36年度末の予定である。

(4)JRR-4
 遮蔽実験用の原子炉として,スイミング・プール型炉を設置する問題は,早くから運輸省や運輸技術研究所で調査研究が続けられてきた.また日本原子力船研究会でも,遮蔽体の研究計画および実験規模ならびにそれに必要な研究用原子炉の検討が続けられてきた.このような情勢にあって原子力委員会もこの問題を重視し,関係方面と意見を調整した結果,原子力研究所にJRR-4として設置することに決し,36年度より建設にとりかかることとなった。
 この炉は出力約1,000kW(ただし,冬期2次冷却水が低温の場合には3,000kWが考えられている.)主目的は遮蔽実験で,下記の実験が計画されている。
1) 比較的簡単な形や組成の遮蔽体材料を用いて,遮蔽計算に用いる諸常数を実験的に求めることおよび理論的計算を実証すること。
2) 形や組成の複雑な実規模の遮蔽体を用いて,計算では算定しにくい遮蔽効果を実験的に求めること。
 また実験設備としては次のものが考えられている。
1) プール: 炉心からの放射線をそのまま使用して実験ができるように,かなり広いスペースをプール内に設ける.とくに予備実験および実験の融通性を考慮してプールを2基とする。
2) リド・タンク: 炉心からの熱中性子線を,中性子コンバータに当て,発生した速中性子線を利用するためのタンクを設ける。
3) 散乱実験室: 炉心からの放射線ビームを取り出し,試料に照射するための実験室を設ける。
4) 水平ビーム孔: 簡単な炉物理実験,測定器の較正等を行なうために水平ビーム孔を設ける。
 なおこの炉の完成予定は38年となっている。

(5) 材料試験炉
 原子炉の研究開発のなかで,材料の研究は最も重要な分野の1つであり,この意味で放射線照射のための原子炉すなわち材料試験炉が必要となってくる.材料試験には,JRR-2,JRR-3も使用されるが,この2つの炉のみでは,実験スペースが限られており,実験しうる試片数も限られているうえに,例えば動力炉用原型燃料の照射実験に必要な加速テストを行なうには十分でない.このため,量的な面からだけでなく,質的な面からもより高度の材料試験が可能な材料試験炉が新たに必要である。
 原子力委員会はこの問題を重視し,35年8月材料試験炉専門部会を設置し,材料試験炉の必要性,設置する場合の炉の仕様等についての検討を開始した。
 一方,36年3月には日本生産性本部から,材料試験炉視察団が米国に派遣され,GE社,WH社,国立原子炉試験所等の材料試験の実態を調査し,4月に帰国した.その報告を参考として原子力委員会ではさらに検討が進められている。
 原子力委員会としては,原子力研究所に炉を設置し,その運用方法については民間企業が大いに活用しうるような体制を整えることとし,できるだけ早期に建設を開始することとなっている。


目次へ          第5章 第2節(2)へ