第4章 国際協力

§1 国際原子力機関の活動

 創立4周年を迎えた国際原子力機関は,加盟国数も75ヵ国に増大し,その事業活動も次第に軌道に乗ってきた。
 すなわち,昭和35年9月20日からウィーンで開催された第4回総会で新たにガーナ,セネガル,マリの3ヵ国の加盟が承認され,またこの総会の期間中に機関憲章の原署名国*であるチリとコロンビアが加盟のための手続きを完了したので,新たに5加盟国を加え機関の加盟国は75ヵ国となることになった。
 また総会では1961年度(機関の事業年度は歴年である.)の事業計画と予算が決定されたが,その予算額は,機関の事業活動の充実を反映してか,前年度と比較して,.経常予算が584万ドルから617万ドルヘ,事業予算が150万ドルから180万ドルへと膨張した。
 35年9月から36年3月までの機関の主な活動をひろってみると,まず第一に取り上げなければならないのは保障措置の採択であろう。


* 機関憲章の規定によれば,憲章制定の際に署名した国,すなわち原署名国の加盟は,その国が国内での憲章批准手続を完了し,受諾書を寄託しさえすれば効力を発生し,加盟に際して総会の承認を得る必要はないことになっている。

 世界各国における原子力施設と核物質の平和的利用を確保し,その軍事目的への転用を防止するために国際的な保障制度を確立することは憲章にも掲げられた機関の最も重要な任務である。
 このため機関発足以来,この問題にたいして慎重な検討が繰返されてきたが,35年9月の第4回総会は激しい議論の後保障措置の原則と手続きに関する理事会の原案を了承(take note)し,さらに36年1月の理事会で多少の修正を加えられた後,正式に採択される運びとなった。
 機関の保障措置は,原子力関係の施設や物質であって,機関によって加盟国に提供されたもの,双務協定等によって提供されたもので当事国の合意により機関の保障措置の下に移されたもの等にたいして適用される.その内容は記録の保存,報告の提出,機関職員による査察等である。
 保障措置制度の採択に当って,ソ連をはじめとする東欧諸国は総会,理事会を通じて,米国は保障措置制度を適用することによって世界を核兵器を所有するグループとしからざるグループに分け,前者により後者をコントロールしようとしていると非難し,またインド,セイロンなどの中立諸国も,東方側に強い反対がある以上今あえて強引にこの制度をつくるのは問題であること,また保障措置を厳格に実施することがかえって被援助国の原子力開発を制約するおそれがあること等を指摘して批判的であった.一方米国をはじめとする西欧諸国は,保障措置制度の確立は憲章にも定められた機関の重要な任務であること,この問題はすでに充分の日時をかけて討議されたものであること,援助の提供を要求せんとする加盟国にたいして,あらかじめいかなる保障措置が適用されるかを明らかにしておく必要があること,多数の加盟国がすでにその保障措置のうけいれを表明していることをあげて積極的に採択にむかって動いた。
 日本は他国にさきがけて,さきにJRR-3用燃料として,機関から天然ウラン3トンの提供を受けた関係もあって,保障措置実現にたいして協力的態度をとり,日本代表は総会で日本は機関の保障措置が確立され次第カナダおよびアメリカとの協定による保障措置を機関に移管するための協議を行なう用意がある旨を発言した。
 なお,機関の保障措置が具体的に適用されるに当っては,機関と当該国との間の協議が必要であり,かつ査察職員の指名,査察に必要な経費の分担等,なお,解決を要する問題もあるので,その実施は36年6月理事会以降のこととなろう。
 また保障措置と密接な関係のある問題に機関の健康安全基準がある.これは健康を保護し,ならびに人命および財産にたいする危険を最少にするために設定される安全上の基準であって,機関が援助した計画等に適用されるほか,後進国における立法の際の手引きとなる目的で作成されるものである.その実体的な内容をなす「基本的安全基準」とその適用のための手続きを定めた「健康安全措置」があるが,後者は35年3月の理事会で決定されたが,前者は35年10月のパネルで準備された草案を基礎にして現在慎重な検討が行なわれている。
 また35年9月の理事会では放射性物質輸送規則が採択された。
 これらの一連の安全規則は加盟国と協議した後,当該国にたいする援助計画に適用されることとなっている。
 機関の組織についてみると,アフリカ地域からの加盟国の数が増大するにともない,現在の理事会の構成は地域的にみて必ずしも加盟国全体を公平に代表しているとはいい難いので憲章を改正して総会で選出するアフリカおよび中東地区からの理事国の数を増加させるべきであるとの意見が各方面から出されるようになった.この問題は理事会における討議を経た後,36年秋の第5回総会で決定されることとなっている.なお,参考までに現在の機関の加盟国と理事国を一表にしめすと(第4-1表)のとおりとなる。

 技術援助の分野でも,機関の活動は予備調査団の派遣,フエローシップの供与,科学者の交流,訓練コースの開催,情報の交換,出版物の発行,設備の提供,委託研究契約の締結等極めて広い範囲にわたって活発に行なわれたが,その重点が低開発国の援助におかれているために,最近のように後進地域からの加盟国数が増えてくるとわが国のごとく中進国的な段階にある国は,今後は機関から援助を受けるばかりでなく,日本が機関を通じてこれらの後進国に援助を提供することが要請されるようになりつつある傾向が認められる。


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