第3章 原子力予算

§2 原子力予算の推移

 昭和31年のはじめ原子力委員会が発足してからすでに5年余りになり,原子力予算も29年度はじめて2億5,000万円計上されて以来,今年度予算で8回目となったので,簡単にその推移の跡をたどってみる。
 まず総額についてみると,第3-1図のように,29,30両年度の2億円台から31年度20億円,32年度60億円,33年度78億円と飛躍的に増加した.すなわち29年度,30年度はわが国の原子力開発の準備期であり,この準備期間をへて31年度には原子力委員会も発足し,研究開発体制が整備されるにともなって本格的開発段階にはいったとみることができる.31年度以降毎年画期的に増加傾向をたどった原子力予算は33年度から今年度までの4年間は,75億円前後にとどまっている.これは開発初期における研究所,研究用原子炉等の建設,その他諸機械設備等の調達がようやく一段落したことを示すものである.しかしながら今後,設置されるべき施設はなお極めて多く原子力委員会の原子力開発利用長期計画においては今後10年間に必要な国の資金として総額1,800億円〜2,000億円程度を予想しており,長期計画の線にそって急速に先進諸国の技術を吸収するとともに,わが国独自の技術を開発するためには,今後,原子力予算の規模が飛躍的に増大することを期待しなければならない。

 ちなみに原子力関係をも含めた34年度の自然科学関係の研究費は,昨年総理府統計局で行なった科学技術研究調査によれば,大学,民間等を含め総額1,489億円で,これは同年度の国民所得の約1.5%となっている.これに関連して,昨年10月,科学技術会議は「10年後を目標とする科学技術振興の総合的基本方策について」にたいする答申で,「民間を含めた国全体としての研究投資は,国民所得の2%程度を目標とし,早期にこの水準に到達させるように努める.政府の研究予算は国全体の研究投資とほぼ比例して増大させるのを妥当とする.」と述べている。
 つぎに予算の推移を機関別にみると,(第3-1図)のごとくである.原子力研究所にたいする支出が31年度以降急増し,32年度以降は毎年度総額の半分以上をしめている.昭和36年度予算について,その構成割合をみると原子力研究所にたいする支出が全体の58%をしめ,これについで燃料公社が17%,国立試験研究機関の試験研究費が8%,放射線医学総合研究所が7%,民間企業にたいする補助金,委託費が4%となっている.このように原子力研究所にたいする支出が総額の半分以上をしめていることは,原子力研究所がわが国の原子力の研究,開発の中枢機関であることを示している.原子力の研究開発には膨大な資金を必要とするし,また立ちおくれたわが国の原子力研究を強力に推進するためには,原子力研究所に有能な科学技術者を結集して国がこれに資金的に強い裏付けをすることが今後とも必要である。
 原子力研究所にたいする31年度以降36年度までの予算の総額を項目別に分類すると,(第3‐2図)のごとく,原子炉等の建設費は総額約130億円に達し,全予算の約54%をしめ,原子力研究開発には膨大な設備費を必要とすること,原子力研究所がなお建設途上にあることを示している.一方,研究費も総額約70億円,全予算の約30%をしめ,研究活動も次第に本格的段階にはいりつつあることを示している.ちなみに36年度における原子力研究所の研究費総額は15億4,700万円で,これは研究員1人当り247万円(内,研究器材購入費は112万円,研究用経費は48万円)となる。

 民間企業にたいする委託費および補助金は33年度の4億7,000万円から34年度3億8,000万円,35年度3億2,000万円,36年度3億1,000万円と漸減傾向をたどっている.この委託費および補助金の内容を課題別の交付額でみると,年度別原子力平和利用研究委託費および補助金の課題別交付一覧表(付録2-2)のごとく35年度までの総額18億6,000万円のうち,燃料および燃料要素関係が3億7,000万円でもつとも多く,これについで減速材および反射材関係の3億2,000万円,原子炉,原子炉構成部分および付帯装置関係の2億8,000万円となっている.年度別の推移では当初は比較的多額であった燃料および燃料要素,減速材および反射材関係は最近むしろ減少し,核融合,原子力船関係の委託費補助金がそれぞれ33年度,34年度以降新たに交付され,またアイソトープ関係の補助金が非常に増加している.原子力の研究開発をすすめるにあたって,民間の科学技術者および研究施設を効率的に活用し,また民間ベースでは研究開発にのりだしえない領域において民間の研究開発活動に口火をつけるために,委託費および補助金が大きな役割を果すことは今後とも強調されなければならない。
 つぎに人の面から31年度以降における発展のあとをたどってみると,原子力研究所,燃料公社および放射線医学総合研究所の人員の推移は(第3-3図)のごとくであり,原子力研究開発の中核となるこれら3機関の人員は」36年度には2,000人を越えるに至った。


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