第3章 原子力予算

§1 36年度予算の概要

 原子力委員会は関係行政機関の原子力利用に関する経費の見積りおよび配分計画を重要な任務の一つとしていて,昭和36年度予算についても,35年8月,原子力関係予算見積り方針を決定した.この見積り方針は,その後,大蔵省との調整,国会の審議を経て,36年度原子力予算として決定をみた.その概要は次のとおりである。
 予算総額についてみると,76億8,000万円で前年度に比し約4,000万円の減少となっている。
 減少したもののうち,おもなものは放射線医学総合研究所に必要な経費約1億5,700万円,核燃料物質等の購入等に必要な経費約1億4,600万円である.放射線医学総合研究所に必要な経費の減少は第1次計画による附設病院等の設備建設が35年度においてほぼ完了したことによるものである.核燃料物質等の購入等に必要な経費の減少は従来,国を通じて行なっていた燃料加工の発注を原子炉設置者等が直接に行なうようになったことによるものである.その他原子力研究所に必要な経費,公社に必要な経費等はほぼ横ばいないし多少の増加となっている。
 原子力予算総額を諸外国の原子力予算と比較してみると,米国は26億5,000万ドル(1960会計年度,円換算約9,540億円),英国は9,300万ポンド(1960会計年度,円換算約940億円)とそれぞれわが国の約120倍,約12倍となっている.これら米英の予算の多くの部分は軍事目的に使用されているが,軍事研究を含んでいないドイツ,イタリアをみても,ドイツは1億8,500万マルク(1961年,円換算約170億円),イタリアは250億リラ(1961会計年度,円換算145億円)といずれもわが国の約2倍あるいはそれ以上となっている。
 36年度原子力予算の内容のおもなものについて述べると次のとおりである。

(1) 日本原子力研究所
 (イ) 原子炉の運転および建設関係についてはJRR-1がひきつづき定常運転を行なうほか,35年10月臨界に達したJRR-2が定常運転を行ない共同利用を開始する.JRR-3は36年度上期には据付を完了し,37年3月ごろ臨界に達する予定である。
 35年8月契約を行なった動力試験炉(JPDR)は本格的建設工事にはいる。
 遮蔽研究用原子炉の契約を年度後半に行ない建設に着手する。
 (ロ) 各種の試験研究関係については,物理,化学,工学,放射線利用等の研究をいつそう推進するとともに,将来の開発目標である増殖炉に関する研究とくに半均質炉の開発研究を強化する。
 (ハ) 技術者の養成事業関係については,アイソトープ研修所,原子炉研修所の拡充を行なう。
 (ニ) 研究施設等の建設関係としては,原子炉特研,研究炉管理部格納庫および講堂の新設,開発試験室,廃棄物処理場の増築を行なうとともに前年度にひきつづき再処理用ホットケープ,ファンデグラフ建屋の建設を行なう。
 (ホ) 研究業務の本格化に即応して150人の人員を増加し,36年度末には役員を含め1,347人(35年度は,1,197人)とする.これとともに外来研究員も35年度の50人から30人増加して80人とする。
 (ヘ) 以上の事業を遂行するため,民間出資2億5,000万円,営業収入および雑収入1億2,199万円を含め総事業費48億1,199万円(債務負担行為11億1,276万円)を計上し,36年度政府出資は44億4,000万円(債務負担行為11億1,276万円)となる。

(2) 燃料公社
 (イ) 核原料物質の探鉱については35年度にひきつづき人形峠および東郷鉱山に重点をおいて探鉱を行なうほか,山形,新潟県境小国地域,新潟県三川赤谷地域等の精査を組織的に行なう。
 (ロ) 採鉱試験は人形峠鉱山で二段採掘試験および水力採掘の基礎的試験に着手する。
 (ハ) 粗製錬,精製錬については35年度にひきつづき国内鉱石および輸入イエローケーキをもって中間規模試験を行ない,いつそうの技術の向上をはかる。
 とくに後者については設備を増強,改善してウラン地金の向上と能率化を目ざして金属ウラン約12トンを生産する予定である。
 (二) 35年度から発足した検査技術開発室では,完成燃料体についでの検査技術の研究につとめる。
 (ホ) 再処理関係の管理分析技術の開発,再処理工場建設予定地買収,再処理工場建設関係調査等再処理事業のための準備にとりかかる。
 (ヘ) 以上の事業を推進するため36年度は13億2,000万円を計上し,人員も35年度の476人を50人増員して526人とする。

(3) 放射線医学総合研究所
 (イ) 総合研究については,昨年度の最大許容量に関連した栄養と放射線の影響,低線量による突然変異発生および14Cに関する研究を継続するとともに,あらたに,緊急時対策および癌の診断治療に関する研究を開始する。
 (ロ) 各部研究については,放射線医学の基礎となる放射線の測定,放射性物質の分析および放射線の生物体への影響に関する物理,化学,生物学,生理学,病理学,遺伝学的研究を行なう.また,放射線障害の診断治療および放射線の医学利用研究を行なう。
 (ハ) 養成訓練業務については,放射線防護短期課程(2回)のほかに,あらたに医学利用課程(1回)および国際原子力機関,世界保健機関との共催の国際課程を実施する。
 (ニ) 以上の業務を行なうため,36年度は5億4,479万円を計上し,アルファ線棟および医療用リニアアクセラレータの新設,動物舎の増設などを行なう.なお,人員も現在の225人を63人増加して288人とする。

(4) 国立試験研究機関
 各省庁所属の国立試験研究機関では29年度以来原子炉材料の研究等各種試験研究を行なっているが,36年度も原子炉材料,核燃料,原子力船,核融合反応,放射線利用,放射線測定,放射線障害防止,安全対策等についての研究を推進する。
 新規のものとしては,工業技術院電気試験所における放射線(能)標準,確立に関する研究のためのリニアー・アクセラレータの設置(現金2,886万円,債務負担額9,622万円),運輸省運輸技術研究所における原子力船の安全対策の研究のための高速電子計算機(6,511万円),警察庁科学警察研究所におけるアイソトープ利用による警察科学についての研究(318万円)等を予定している。
 以上の予算措置として6億3,272万円(債務負担額9,622万円),を計上した。

(5) 補助金,委託費
 原子力関連機器,材料の国産化のための研究,核融合に関する研究,原子力船に関する研究,放射線の利用に関する研究,原子炉の安全性に関する研究等を推進するため補助金1億8,390万円,委託費1億2,610万円を計上した核原料物質の探鉱奨励金1,200万円および廃棄物処理事業補助金308万円,合計3億2,508万円の予算も計上した。

(6) 放射能調査研究
 従来行なってきた調査研究をひきつづき行なうものとし,予算として4,716万円を計上した。

(7) 核燃料物質購入等
 原子力研究所をはじめ大学その他の原子炉,臨界実験装置等に使用する濃縮ウラン等の賃借および購入のために必要な経費として1億2,097万円(債務負担額6億2,959万円)を計上した。

(8) 原子力委員会および原子力局の強化
 原子力委員会に原子炉安全専門審査会を付置し,原子力委員会における原子炉安全審査機能の充実強化をはかるものとし,所要の予算措置を講じた。
 原子力局については国際協力課を新設し,また人員は35年度の133人から143人に増加して,原子力行政事務の増大に対処するものとした。

(9) 原子力技術者の派遣その他
 原子力技術者の海外派遣費については,3,024万円を計上し,35年度にひきつづき専門技術者の海外派遣を積極的に行なうものとした。
 原子炉安全対策事務,放射線障害防止のための検査事務,各種調査企画事務等を強力かつ円滑に行なうため必要な予算措置を講じた。
 また原子力平和利用に関する知識の普及をはかるため,とくに啓発に必要な経費を計上した。

(10) 各省原子力関係行政費
 関係各省の行政費としては,外務省における国際原子力機関のために必要な経費等9,909万円が関係各省の予算に直接計上された。


目次へ          第3章 第2節へ