第15章 科学技術者

§2 長期計画と科学技術者の養成

 原子力委員会は,原子力開発利用長期計画の第IV部促進方策で,科学技術者の養成を取り上げた。その内容は,35年4月に,原子力関係科学者技術者養成訓練専門部会が提出した答申を骨子としたものである。答申の概略については,前年度の年報に述べたので,ここでは,その答申を長期計画にどのように取り入れ,どこに重点を置いたかについて要約する。
 まず,科学技術者の範囲を定め,次にそのその所要数を推定し,その対策を述べた点では答申と変りはない。重点がおかれたのは,今回の長期計画が20年間を対象として,前期10年を研究開発の,後期10年を実用化の段階と区別して考えたことにそくして,とくに現段階が平和利用開発の初期段階にあることからみて,研究的要素をもった科学技術者の養成を重視したことである。そのため養成訓練対策として,関係各機関が,密接な連携を保ちつつ,組織的体系的な養成訓練を行なう必要があると述べ,とくに大学の果す役割について大きな期待をよせた。すなわち,「原子力平和利用を今後積極的に推進するために,大学が原子力専門科学技術者の所要数を養成しなければならぬことを考えれば,その使命はまことに重要である」として,これら教育,研究設備の計画は,原子力関係専門学部学科または大学院専攻課目の設備計画とともに,文部省その他関係機関において慎重に立案する必要があることを指摘した。第2の重点として,原子力研究所原子炉研修所,同ラジオアイソトープ研修所,放射線医学総合研究所養成訓練部の使命を明確にし,とくに原子炉研修所の使命について,「大学卒業後職業に従事しているものの再教育,あるいは高度の研究訓練にある」と規定し,ラジオアイソトープ研修所,放射線医学総合研究所養成訓練部とともに,大学における体制の整備された後でも,ひきつづき重要な位置を占めるべきであるとした.数値としては,各範囲別の科学技術者の所要数が,発電計画の変更等により(第15-1表)のように変った。ここで原子力専門科学技術者と原子力関連科学技術者の所要数が減少したのは,45年度までの発電計画の繰り延べにもとづいている。また,このなかに原子力船部門の科学技術者所要数が考慮されていることも答申と異なった点である。放射線利用関係科学技術者,放射線安全管理者の所要数が増加したのは,算定の基礎となるアイソトープ取扱事業所数が増えたためである。

 前表のように,原子力関係科学技術者が,10年後に合計1万1,000人ないし1万3,000人必要であると推定したことを考えると,この10年間に新らたに8,000人(年間800人)以上の養成をはかる必要がある。現在養成可能人員は,大学で150〜200人(内国立大学100人),原子力研究所,放射線医学総合研究所で200人,海外留学により90人である。消耗人員を考慮すれば,所要数の50%しか養成できないことになる。これでは原子力開発利用の効果的な促進は極めて困難となるので,関係各機関は十分な連携を保ちつつ,所要人員の確保をはかるとともに,質の向上をも考慮した養成訓練対策をたてねばならない。


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