第14章 規制と放射線防護

§5 放射線防護に関する研究の現状

 放射線医学総合研究所では,35年度から各研究部ごとの研究以外に総合研究課題をとりあげ,各研究部を総合した研究班を設けてこの研究を実施している。総合研究テーマは「放射線による影響と栄養に関する研究」と「低線量による突然変異発生率の研究」であるが,前テーマについては欧米人と日本人とにたいする放射線による影響の相違の大きな原因として日本人の食生活の特殊性が考えられるので,この関係を明確にすべく研究中である。後のテーマは,現在定説となっている突然変異の発生率と被曝線量が比例するという関係の成立する最低の線量をつきとめようとするものであり,25レントゲンが実験的にたしかめられている最低値であるが,現在この値を8レントゲンまで下げた場合の結果につき追求中である。
 各研究部が実施しているものとしては,人体内部に存在する放射性物質の核種と数量を知る試みとして,ヒユーマンカウンタの建設が進められている。この原理は人間を大きな検出部内に入れて,微量の放射線をスペクトロメータで分析して測定するもので今までは全く測定不可能であった分野にたいする新測定技術として世界的にも大きな発展課程にあるものである。
 照射をうけた生体での生化学的変化は主としてその酵素活性の変化に帰せしめることができるが,この本質をつきとめるため酵素合成能力にたいする放射線の影響につき研究が行なわれている。
 ショウジョウバエを使用して放射線の遺伝質にたいする作用につき,とくに突然変異の誘発とその機構について研究が進められ,また環境に存在する放射性物質を体内に摂取することによる内部被曝量の試算につき研究が行なわれており,とくに粉塵状の放射性物質に重点がおかれている。
 直接人体の放射線障害の診断,治療および放射線を利用する診断,治療を目的として研究が進められ,現在は広島,長崎の原爆被爆者につきその後の健康状態について連続調査中である。
 一方胸膜炎,腹膜炎のラジオコロイドによる治療については相当の成果が収められている。
 原子力研究所では,人体に摂取された放射性物質,とくにウランにつき,糞尿中に排出されるウランの量と時間の関係を研究中であるが,その測定原理および基礎実験は終了し,定常業務化すべく努力中である。また核燃料物質による内部被曝量の算定については,計算機を利用してその結果を求めるため準備中である。
 上記研究所以外の研究機関では,放射線施設にたいする火災時の対策として消防署員の基本的活動方法を定めるため,同施設の火災時における放射性物質の挙動につき研究している。
 種々の気象条件のものとで気体状あるいは粉塵状の放射性物質(主として131I)の拡散につき,研究調査を行なっている。一方,短期間の気象調査資料から,その地点における年間の気象状態を推定する場合の観測回数および観測期間年数とその的中の度合の関係を求めるため,統計的処理法についても研究中である。
 対象をプラスチックおよび種々の塗料仕上面とした場合の汚染除去剤について研究をすすめている。
 除去剤としては酸化エチレンおよび酸化プロピレンの縮合体を基体とした洗浄剤に錯化剤を添加したものが用いられる。


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