第14章 規制と放射線防護
§2 法令改正

2−1 放射線防護の技術的基準の改正

 原子炉等規制法,障害防止法およびその附属法令は,核原料物質,核燃料物質,原子炉,アイソトープ,粒子加速器等の適正な取扱いを使用者等に義務づけているもので,放射線作業従事者の最大許容被曝線量,事業所外へ放出される排水または排気中の放射性物質の最大許容濃度等の放射線防護の技術的基準については,その軌を一にしている。しかし人体に対する放射線の影響については未知の点が少なくなく,各種放射線の最大許容被曝線量,排水または排気中の放射性物質の最大許容濃度等の数値を決定し,これを法令によって強制するためには,豊富かつ正確な学問的知識を必要とする。国際的にこの方面で権威を認められているものとして,ICRP(International Commission on Radiological Protection,国際放射線防護委員会)があり,同委員会の勧告は法的拘束力を持つものではないが,各国における放射線防護の基準決定に際しては重視されている。旧法令の作成にあたっては,同委員会が28年に発表した勧告を基本にして,放射線にたいする各種の許容値が決定されたが,ICRPはその後の進歩をとりいれて,33年に新勧告を発表し,ついで34年には同勧告に含まれなかった事項について声明を出すところがあった。
 放射線審議会はこの新勧告(声明を含まず)について自主的に検討を行なうことを決定して33年11月から開始し,慎重審議の結果,34年8月および35年2月の2回にわたり意見書を内閣総理大臣あて提出した。
 政府はこれにもとづきわが国における障害防止の技術的基準に新勧告を原則的にとりいれることとし35年9月前記2法律の関係法令について改正を行なった。
 改正点は下記の項目にわたっている。

(a) 管理区域の設定
 人がある区域内に1ヵ年間留まったと仮定した場合,外部からの放射線および体内に摂取する放射性物質による放射線の被曝線量が1.5レムをこえるような区域を管理区域として,人の無用の立ちいりを禁じ,これに立ちいる者にたいしては,被曝線量の測定,健康管理などの規制が加えられることになった。

(b) 放射線作業従事者と管理区域随時立入り者の区分
 旧法令では作業従事者についての区別はなかったが今回はこれを2分し,この両者にたいして放射線被曝線量の許容値,被曝線量の記録の方法,健康診断などにつき,異なる規定が適用されることになった。放射線作業従事者といっても,その程度は仕事の種類によって異なり,毎日これに従事する者もある反面,定期的ではあるが月に1回程度従事する者もあるといった実情であるから,実際上個人管理を円滑に行なうためこの両者を区別するようにしたものである。

(c) 放射線作業従事者の被曝線量の許容値
 放射線作業従事者の被曝線量は,従来週単位のみで規制されていたが,最大許容被曝線量(3ケ月単位)と最大許容集積線量(一生の間)の両方で規定されるようになったほか,事故時の人命救出の場合等の緊急作業時の例外として緊急被曝線量が認められた。最大許容被曝線量は従来の1週300ミリレムを,3ヵ月間に3レムに,また,新らしく定められた最大許容集積線量は,その人の年令から18を減じた後の5倍の数値とした。すなわち数式で表わすとD=5(N-18)となる。
 乙の式においてDはレム単位で表わされた最大許容集積線量,Nは年令,である。もちろん18才未満の者の職業としての被曝は原則として禁じられている。
 緊急作業時の例外は,対象を男子のみに限って,1回につき12レムまで認められるようになった。事故により25レム以上被曝した者については,配置転換をし,かつ医師によるその後の保健指導が必要とされる。

(d) 管理区域随時立入り者の被曝線量の許容値
 この許容値は1年間につき1.5レムと定められたが,一生の間の集積線量についての規制はない。

(e) 放射線施設等の遮蔽物
 旧法令ではその遮蔽能力について数的な表現がなかったが,改正後は設計の基準として施設内の人の当時立入る場所については週100ミリレム以下に,事業所の境界等においては週10ミリレム以下になるように遮蔽しなければならないことになった。

(f) 空気中または水中の放射性物質の許容濃度
 この濃度については,従来呼吸または水分摂取の際に体内にはいる放射性物質からの放射線量が週300ミリレムになるような濃度をもって,許容限度となるように定められていたが,今回は週100ミリレムをこの基本値としたため全体としては一段と厳格なものになった。しかし,ある核種についてはその後に得られた知識にもとづく計算の結果緩和されたものもある。また旧法令には明確でなかった時間的要素が明らかにされ,これら濃度は原則として8時間の平均値とすることになった。


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