第13章 放射性廃棄物処理

§1 わが国における動向

 放射性廃棄物の処分についてはわが国では,放射線障害防止の立場から昭和32年にいわゆる「障害防止法」および「原子炉等規制法」が公布され,さらに35年10月には1958年の国際放射線防護委員会の勧告をとりいれて前記2法の改正を行ない,法的に相当厳重な規制を行なっている。たとえば,放射性の液体廃棄物は放射性物質の濃度が,(第13-1表)の値より低い値にしなければ,廃棄してはならないと決めている。

 原子力の利用開発にともない原子力関係施設から生ずる放射性廃棄物の量は年々増加し,各施設ごとにそれを合理的に処理するには技術的あるいは経済的に困難な場合も多い。そこで各施設から生ずる廃棄物を一括して処理する中央処理機関の設立が強く要望された。政府としてもこの必要性を認め放射性廃棄物のうち自己処理困難なものの一括処理をはかるため,日本放射性同位元素協会が行なう放射性廃棄物処理事業に34年度以降補助金を交付し,これを助成している。
 日本放射性同位元素協会の廃棄物処理の業務内容は,さしあたり廃棄物を収容する容器を各事業者に貸与し,これを定期的に回収し,そのまま,廃棄物保管場所に保管することになっている。
 実際の業務は35年10月から開始し,現在までに貸与および回収した容器の数は(第13-2表)のとおりである。

 今後増大すると予想される放射性廃棄物の合理的な処理方策を確立するため,また燃料再処理開始の問題等新たな事態の発生に対処するため35年10月原子力委員会は廃棄物処理懇談会を設け,放射性廃棄物の処理ならびに処分についての基本方針および国際原子力機関の海洋投棄パネル勧告書の検討等を行なった。この検討は,放射性廃棄物の処理(Treatment)作業班および処分(Disposal)作業班で行なわれ,現在までに下記の結論をえている。
 なお,本勧告書は海洋に放射性廃棄物を投棄した場合,人類に影響を及ぼさないよう国際的な取りきめを勧告しようとするものである。
 勧告書によると廃棄物の分類は,高,中,低レベルの3分類のみであり,これではあまりに大分類すぎて,海洋投棄の場合の基準として採用すべきでないと思われるし,また一般大衆の年間遺伝線量の25分の1(0.02レム)以下を国家統制できない海洋起源の放射線にたいして割りふるべきであると勧告しているが,わが国の意見としては海洋投棄に関し,各国一律に遺伝線量を25分の1保留することは適当でなく,海産物依存度の大きい国民とそうでない国民とは別個に考慮し海洋投棄に起因する遺伝線量を決定すべきであるなどの結論をえた。
 廃棄物処理懇談会は36年2月廃棄物処理専門部会に発展しひきつづき廃棄物処理および処分について検討を行なっている。
 また,36年4月政府は英国原子力公社ハーウエル研究所のバーンズ博士を招へいし,英国の廃棄物処理に関する現状についての講習会を開くとともにわが国のこの分野における実情について助言をうけた。


* 人が1年間に普通の状態でうける放射線量は0.05レム程度である。


目次へ          第13章 第2節へ