第11章 原子力関連機器および材料
§2 原子力関連機器

2−1 原子炉関連機器

(1) 原子炉容器
 軽水冷却炉に使用される圧力容器については,これまでに民間企業で,胴板に用いられるステンレス鋼と炭素鋼のクラッド鋼板が,厚さ20cm程度まで圧延法および肉盛法によって,試験的に製作できるようになったほか,シッピングポート原子力発電所の6分の1の大きさのものが試作された。また,圧力容器の強度解析,残留応力および熱応力についての研究等が行なわれた。35年度は,34年度に引き続き,圧力容器の微少漏洩の研究が行なわれた。これは,漏洩孔のある試験片を用いて,ヘリウムガスの漏洩量と軽水,重水等の冷却材の漏洩量との関連を研究し,漏洩についての検査基準を確立することを目的とするもので,研究の結果,ヘリウムガスのような不活性ガスを漏洩孔の直径の測定に使用するのが適当であることが解った。さらに,圧力1〜100気圧,温度室温〜200°Cでの窒素ガス,炭酸ガス,水等の漏洩量を測定し,実用温度圧力下での漏洩量を推定する研究が進められている。
 また,圧力容器上部ヘッドと胴部を結合するフランジの漏れ止め法およびボルトの限界締付圧力等を解明するため,できるだけ実物に近い大型フランジ模型を用いて漏洩試験を行ない,優秀なパッキングの選定とその限界締結圧力を求める研究が進められている。
 この他,原子炉圧力容器として有望な高張力鋼数種について,機械的性質,靭性,溶接部の硬化と延性,溶接亀裂性,歪時効性等についての比較試験を行ない,その溶接性の検討を行なうとともに溶接材料の試作試究および超音波を利用したエレクトロ,スラグ溶接法等の溶接施工条件を求める研究が行なわれている。
 一方,金属材料技術研究所では,板厚38mmのステンレス・クラッド鋼の溶接継手について40トン大型試験機によりクリープ・ラプチャー試験が行なわれ,溶接部の局部クリープ破壊について研究され,亀裂発生に及ぼす材料施工法について検討された。この結果,後熱処理の影響としては溶接のままのものが,最も破断時間が長いことと炭素鋼側をユニオンメルト溶接したものが手溶接したものに比して約50%破断時間が低いことおよび破断はステンレス溶着金属とステンレス鋼および炭素鋼との異材の境界点から発して,ボンドまたは熱影響部に沿って起っていることが解った。

(2) 熱交換器
 熱交換器については,これまでに軽水冷却2重サイクル系および炭酸ガス冷却炉用熱交換器等について研究が行なわれた。35年度は,34年度から引き続き軽水冷却炉に用いられる熱交換器について民間企業で,伝熱面積115m2(直径800×長さ5,500mm)のものを目標として,その工作法の研究が進められた。この結果,18-8ステンレス鋼管とこれを支持する管板との溶接法については,光電管式マルチプル・チューブ溶接機が完成し,溶接によるステンレス鋼管の過熱防止にはアルゴンガスによる冷却が適していることが解った。シエル溶接部の放射線検査については,X線装置を利用し,被検査物であるシエルを回転させつつシエル溶接部全周の検査を行なうという従来と異なった方法を確立した。また,ステンレス鋼管と内面肉盛したクラッド鋼製水室との異種金属の溶接法ならびにシエル水室との溶接およびその焼鈍方法が確立された。
 一方,原子力研究所では,熱交換器の小型化が期待できる直交流型熱交換器について実験設備で基礎的な研究がすすめられている。

(3) 冷却材循環機
 軽水冷却に使用されるキャンドモーター・ポンプについては,民間企業において研究開発が進められており,32年に15kWのものが試作され,その技術をもとにして,33年より350kVAのものの試作が始められ35年度に完成した。これは,圧力140kg/cm2,温度300°C程度で運転できることを目標とするもので,試作完了後,まず,常温でポンプ単独試験が行なわれた後,試験ループに組み込まれ設計圧力,温度で試験が行なわれた結果,モーター上部の振動は両振幅で100分の2,総合効率約70%,無漏洩で運転できることが確認された。しかし,実用規模の動力炉用としては,さらに大型,高性能のものの開発が必要である。
 また,34年度から引き続き,ステンレス鋳鋼の溶接加工によるキャンドモーター・ポンプのポンプ部の試作研究が行なわれ,溶接および鋳造性の適正な厚肉(約100mm)のステンレス鋳鋼を製造するための化学成分,グレインサイズ,フエライト量,熱処理等の標準仕様およびその溶接方法の規準が作成された。また,試作品の特性試験が行なわれ,満足な結果が得られた。
 一方,キャンドモーター・ポンプに比し製作費が安価で,かつ,モーター効率は高いが,軸封部の漏洩の問題がある軸封型ポンプの軸封部の研究が,35年度から開始された。グランド部フローテイング式シール水使用のものと,メカニカルシールの2方法が研究されている。
 一方,ガス冷却炉に使用される炭酸ガス圧送機については,225馬力のものが,また,ナトリウム冷却炉用電磁ポンプについては250°C,250g.p.m.,圧力差2.1kg/cm2のものがこれまでに試作されている。

(4) バルブ
 バルブについてはこれまでに,民間企業で口径50mm,圧力45kg/cm2のベロシールセーフテイバルブならびにさらに高温高圧を目標として口径150mm,温度300°C,圧力140kg/cm2のウエッジゲートバルブおよびパラレルスライドバルブの試作が行なわれた。
 この結果最近では口径510mm,圧力176kg/cm2程度のものまで生産しうる設備が整備されつつある。また,バルブのグランドパッキング部の漏洩について,パッキングの種類,材料,充填法の研究さらには漏洩の検査法についてもγ線を使用した研究が行なわれている。

(5) 制御装置
 原子炉制御機構については,まずJRR-3(国産1号炉)を目標とくて,民間企業と原子力研究所の共同研究により研究が進められ,36年中頃には完成する予定である。制御棒は微調整棒,粗調整棒ともにステンレス鋼被覆カドミウム管である。微調整駆動装置はスクリューナット方式で移動速度35.5mm/sec,粗調整駆動装置はワイヤーロープによる巻込方式で移動速度は6mm/secおよび18mm/secの2通りで,スクラムの際は信号が発せられてから50msec以内に落下を開始し,上端から1,500mmの間は0.8g以上の加速度で落下するようになっている。
 また,半均質臨界実験装置の制御機構についても民間企業と原子力研究所の共同研究により製作され,核計測の面では,国産の核計測装置で原子炉を実際に操作するのはこれが初めてであり,困難な問題がつきまとったが,実用になるよう調整することができた。


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