第10章 放射線の利用
§3 放射線化学

3−2 わが国における状況

 わが国でも31年頃から,放射線化学の研究が開始され,大学,名古屋工業試験所,東京工業試験所などの国立研究機関,原子力研究所,理化学研究所,日本放射線高分子研究協会,民間企業で独自の立場から調査研究が行なわれている。
 照射装置の設置状況については,原子力産業会議の調査によれば36年1月1日現在で,大学関係24,官公立試験研究機関関係20,民間企業関係19合計63機関となっている.このうち,4機関は36年度中に設置予定のものである.また,放射線化学研究に用いられる照射装置は,(第10-9表)のように60COが圧倒的に多く,(第10-3図)のように全輸入量の約半数を占めている。

 この分野で現在行なわれている研究は,(第10-10表)のように,高分子関係が最も多く,有機化学,無機および物理化学,線量測定の順になっている.原子力研究所,国立試験研究機関,日本放射線高分子研究協会などの主な機関での研究をみると,まだ実用に達したものはないが,注目すべき成果が発表されている。
 原子力研究所では,高分子物質の放射線照射にする電気伝導度の変化遊離基の構造,発生気体の分析,また,有機物の放射線分解の機構の研究,物理的あるいは化学的線量測定法などの研究を行なっている.なお;放射線源としては,60CO 1万キュリー照射施設およびJRR-1のほかに,36年度からは,JRR-2および20MeVのリニア・アクセラレータが利用される.東京工業試験所では,エチレンの加圧重合反応,有機低分子化合物の重合反応の研究,名古屋工業試験所では,照射による高分子物質の物性,合成繊維の共重合の研究,繊維工業試験所では,放射線による繊維の染色加工法の改善などの研究を行なっている。

 このほか,大学,民間でも特異な研究を活発にすすめている.なかでも,日本放射線高分子研究協会では繊維の改善をはかるために,放射線重合反応研究などをすすめている。
 35年度における放射線化学関係の原子力平和利用研究補助金交付研究としては,放射線グラフト重合によるセルローズ繊維からの新繊維の製造,放射線によるポリオキシメチレンの製造,グラフト共重合による陰陽複合イオン交換膜の製造,放射線による塗料膜の性質の改善などに関する研究がある。
 このように,わが国の放射線化学は,応用研究の面ではかなりすすんでいるが,基礎研究および工業化のための技術の開発研究については欧米に比しかなり遅れている。


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