第10章 放射線の利用
§3 放射線化学

3−1 海外における状況

 米国では,1958年に放射線化学開発計画がたてられ,原子力委員会が中心となって,基礎研究はもとより,応用研究,放射線工学をはじめ放射線源の研究開発をすすめている.また,民間では,応用研究,加速器の開発をすすめている,最近の状況は,一時のブームによる工業化の意図も低下し,大学や研究所ばかりでなく生産会社でも基礎研究に重点がおかれる傾向がみられる。
 応用研究については,高分子の研究が活発で,最も近い将来に多くの工業化の見込まれる有望な分野と考えられている.したがって,工業化の現状をみても,高分子関係が最もすすんでおり,ワイヤー・コーテイング,熱収縮食品包装用フイルム,絶縁テープ,絶縁材料などに利用されている.食品の保存,医療品の殺菌などのための放射線の照射利用については,米国がこのために100万キュリーの線源の設置を計画し,英国では15万キュリーを,ソ連では,数万キュリー台の線源を利用していることは注目すべきである。
 一方,低分子関係の研究は,極めて少なく,放射線による低分子反応を工業化するには,特異な反応の発見,G値の向上,線源コストの低下など,高分子以上の研究開発が必要とみられている。
 放射線化学に利用される放射線源は,現在,60C0,137Csなどのアイソトープや加速器であるが,最近,米国原子力委員会は,このほか化学原子炉の利用を正式にとりあげ,窒素固定の研究,ベンゼンからフエノール,メタノールからエチレングリコールの合成などの研究を行なっている。
 これらの研究にともなって,放射線化学の開発に大きな比重をしめる強力かつ安価な線源の開発が,ブルックヘブンや,オークリッジなどの国立研究所や民間企業で計画されている.とくに前者は,アイソトープの大線源,使用済燃料および化学用原子炉の開発,また,後者では,加速器の開発に重点がおかれている.線量測定についても,大学,研究所および民間企業で研究が行なわれている。


* 100eVのエネルギーによって反応する分子数。


目次へ          第10章 第3節(2)へ