第10章 放射線の利用

§1 概 況

 わが国にアイソトープが輸入されて利用されるようになってから,昭和35年4月で,ちょうど10年になる.今日では,アイソトープは,医学,工業,農業などの分野で,応用研究にあるいは,実用に広く利用されて非常に大きな貢献をしている。
 アイソトープの使用事業所も36年3月末現在で約900事業所に,日本放射性同位元素協会が35年度中に出荷した件数は,約9,500件に達した.その内訳は,医学関係が最も多く全体の70%をしめ,理工関係,農学関係は,それぞれ16%,8%となっている,また35年度のアイソトープの輸入量は,約5万5,000キュリーに達し最高記録をつくり,輸入外貨割当金額は約1億9,000万円に達した。
 このように需要の増加にともない,原子力研究所では,アイソトープの国内需要をまかなうための製造研究をつづけており,アイソトープ試験製造工場も完成した。
 アイソトープ利用については,諸外国でも,つぎつぎに新しい利用を開発しており,わが国でも,実用化のための応用研究や新分野開拓の研究をいつそう活発に行なう必要がある。
 放射線化学は,最初,アイソトープ利用開発の一部分として出発したが,原子力研究所,大学,民間企業などの活発な調査研究によって,その重要性が認められ,アイソトープとならんで今後大いに研究開発を進めるべき一分野として注目されるようになった。
 わが国では,この分野の研究開発を効果的に推進するために,35年6月に,放射線化学調査団が米国に派遣された.また,原子力委員会では,放射線化学専門部会を設けて検討を行なった.36年2月には同部会の答申が行なわれて,放射線化学開発計画が発表され,放射線化学開発の中央機構の考え方が明らかにされた.この計画にしたがって,36年度には,原子力研究所に放射線化学開発準備室が設けられるなど研究開発体制は軌道にのりつつある。


目次へ          第10章 第2節(1)へ