第9章 基礎的研究

§4 応用科学部門

 応用科学中化学系のものは§3でいっしょに論じたのでここでは物理系工学を中心にしてのべる。
 §1で述べたように基礎科学の基盤を技術へと連結するこの部門の進展は原子力開発の鍵となる重要なポイントである。炉物理,炉設計から原子力発電にいたるまで,さらに熱交換機,炉材料の材料力学的,核工学的諸性質,燃料と減速材,反射材,冷却材の組合わせによる工学的諸問題等解明すべき問題は山積している。従来,日本原子力研究所を中心に大学,民間企業体等において研究が進められてきたが,数年来これらの研究者が集合して原子力学会の設立を見るに至り,大学の研究者も次第に参加の数を増し,また応用科学者のみでなく,基礎科学者の参加も次第にふえてきている。このことは確固たる基礎科学の上に打ち立てるべき応用化学,しかも最も新しい応用科学の立場として健全な方向へと歩みつつあるものと解してよかろう。わが国原子力の当初から足場の弱かった関連応用科学の基礎をはやく固めることは一つの大きな課題であり,わが国原子力の健全な発展,国内技術の育成という立場からも考えなければならない。このためには日本原子力研究所,原子燃料公社,民間企業体の研究者の立場と大学側の研究者-基礎料学と応用科学の両面-との協力体制を具体的に打ち立てることであろう。この部門を研究の面から見ると炉設計のほうでは設計研究のための種々の原子炉集合体についての理論的計算,中性子の行動記述のための種々の理論計算等が主として日本原子力研究所,民間企業体の研究者を中心に行なわれており,きわめて活発で活動的である。しかし技術導入による先行性への追随にまだ精一杯であり,具体的な炉集合体にこだわりすぎて応用科学の立場としての体系化が少なすぎはしないかとの懸念も存在する。外国技術の模倣を脱却するための一つのステップはまずこの分野での科学としての立場の確立にあろう。一方国の施策としての原子炉開発計画に見合うための具体的研究も決して軽視することはできないもので,その点から炉設計関係の理論的計算の数多く現われていることは,それ自体としては喜ぶべきことであろう。核設計,遮蔽設計,安全性解析等のための数値計算のルーチン化に伴ない,電子計算機の大幅な利用,そのコード開発を図るべきであろう。
 原子炉における材料の重要性は述べるまでもないが,核化学的,冶金学的,材料力学的性質の解明は重要な課題である。特定の部材の組合せによる材料強弱的研究,耐震構造的研究等工学の諸分野にわたる部面の多いことはいうをまたず,この面での研究は大学との共同研究の形で進んでいるものが多い。原子力発電,原子力船,原子炉制御系の基礎研究も大学,日本原子力研究所,その他の研究機関で精力的に押し進められている。


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