第8章 原子炉用材料

§1 概 況

 原子炉用材料として重要な重水,黒鉛,ベリリウム等の製造技術は主,として民間企業において昭和29年度以降昭和33年度まで研究開発が行なわれ,かなりの成果を得ている。すなわち重水については重水と軽水との沸点の差を利用して重水を分離する水の蒸留による方法,重水と軽水の電解分離係数の差を利用する回収電解法等の製造技術の開発を行なってきた。この研究に引き続き現在米国で採用されている大量生産方式である硫化水素-水系二重温度交換反応法の検討を行ない,この方法の重要な因子である硫化水素による各種材料の耐蝕性等について研究開発を行なってきたほか重水の大量生産方式である水素-水系二重温度交換法,水素液化精溜法についても基礎研究を行なっている。また黒鉛については,昭和29年度以降の製造技術の開発により硼素含有率0.1ppm以下,比重1.7以上,異方性の少ない黒鉛の製造技術がほとんど完成の域に達したので,これらの技術により製造した黒鉛試料を米国におくって,原子炉に挿入し高密度中性束による損傷の試験を行なった。その結果,国産黒鉛も充分外国の製品に匹敵するものが得られることが判明した。さらにコールダーホール改良型原子炉の設置に伴ないこれに使用される黒鉛の耐震性について建築研究所,東大,早大等において研究開発を行ないその安全性について検討した。したがって今後は黒鉛とガスとの反応研究や日本原子力研究所におけるJRR-2の運転,HotLab,等の建設完成をまって,黒鉛の放射線損傷のさらに詳細な研究を本格的に行なう必要があろう。次に近い将来に利用を予想されるベリリウムおよび酸化ベリリウムの製造技術の開発については,32年度より研究がすすめられ,純度99.99%以上比重1.79のベリリウム酸,比重2.99酸化ベリリウムの製品を製造することができた。
 このように重水,黒鉛,ベリリウム等の製造技術の開発と共に昭和34年度には,燃料被覆加工材料である不滲透性炭素,アルミニウム合金,ジルコニウム合金,マグネシウム合金等の製造技術ならびに冶金学的研究を民間企業日本原子力研究所を中心に行なっている。
 次にこれらの研究開発について説明する。


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