第7章 原子力関連機器

§2 原子炉関連機器

 原子炉関連機器とは核分裂エネルギーを原子炉から有効に取り出すとともに安全な運転制御を保持するために必要な機器で,キャンドモーターポンプ,電磁ポンプ,原子炉用炉心容器,原子炉用熱交換器,原子炉用弁,制御棒駆動装置,制御用機器等がこれに属する。わが国では主として民間企業が,原子力平和利用研究費補助金の交付を受けて研究開発を行ない,その成果をもってJRR-3に取り付けるこれら機器の国産化に着手するとともに将来国産化されるべき動力炉用機器の研究開発に役立てようとしている。
 政府はこれら民間企業における研究開発を積極的に助成するため,31年度以降34年度までに原子炉用ポンプに約2,500万円,原子炉用熱交換器に約2,400万円原子炉用炉心容器に約5,000万円等,全体として原子炉関連機器に約1億5,000万円の研究補助金を支出している。((第7-1表参照))
 これら機器は原子力以外の火力発電,造船,機械,化学工業等の一般工業用機器としてもひろく発展しているが,原子炉用として使用される場合には前述のごとく温度,圧力,漏洩,腐蝕耐性等の面で従来の機器に比し非常に厳しい条件が要求されてるので,この点に研究の重点がおかれている。一例をキャンドモーターポンプについて説明すれば加圧水型原子炉においては,2,000psi,300°Cの加圧水を原子炉出力に応じて。大量に連続循環せしめねばならないが,この目的にそうためには,従来からあるパッキング・シールあるいはリークオフ型シール等の通常の非密封駆動,あるいは中間シールを施した半密封ポンプ駆動,フラッドモーターポンプ等の密封駆動方式は,いずれも高温,高圧,耐腐蝕性,しかも完全にもれのない高度の信頼度を要求せられる条件に対して不適当であって,かかるポンプ駆動方式の唯一の解決策としてキャンドモーターポンプの必要性が生じてくるわけである。
 次に原子炉関連機器として主要な機器の研究開発状況を概略述べれば次のごとくである。

 (1) 原子炉用ポンプ
 高圧水の循環または給水に関しては,高圧ボイラー用として従来から多くのポンプが国産されているが,冷却水を高温高圧下で絶対に漏洩なしに循環させるための原子炉用ポンプとしてキャンドモーターポンプが開発されている。このポンプは主として米国ウエスティングハウス社が,加圧水型炉用として研究開発したものであるが,わが国でも技術導入ならびに独自の研究開発によって350kVAのものが試作研究されている。キャンドモーターポンプには特にケーシング用不銹鋼厚板の溶接,耐蝕,金属製キャンの成型加工と溶接,軸受および軸の加工,各部の密封溶接等の工作上の問題点があるが,34年度は特にステンレス鋳鋼の溶接加工に関する技術を開発するため,各種ステンレス鋳鋼についてその溶接性能を比較検討するとともに,ケーシングを分割鋳造して衝合溶接するための継手部の設計を行ない,ケーシングを溶接組立する際に生ずる工作上の問題点の研究が行なわれた。なおこのような工作上の問題は大型になる程,難しい点が多く出てくる。米国では現在2,000馬力級のものがすでに開発され運転に供されているが,わが国においても動力用大型キャンドモーターの研究開発がすすめられている。 一方キャンドモーターポンプはポンプ効率の低いこと,速度制御の不便さ等の難点があるので,これに代ってコストの低い軸封ポンプが,原子炉用として考えられている。しかし軸封ポンプも漏洩や耐久性等にいまのところ欠点があるので,これらの不利を解決するための研究開発が行なわれており,将来これらが解決されるにともない,実用化へ向うものと期待される。
 次にナトリウムのごとき液体金属冷却用のポンプとしては,液体金属の化学的活性が強く,また不純物の混入を避ける必要があるので電磁ポンプが必要となるが,この分野については,2500C,250g.p.m圧力差2.1kg/cm2のものがわが国においても試作されている。

 (2) 原子炉用炉心容器
 原子炉用炉心容器は,わが国においても発電,化学,造船等の原子力工業以外の一般工業において広範に使用されている圧力容器の一種である。
 しかしながら原子炉用炉心容器は,一般の圧力容器と異なり,高温高圧水に耐ええるための強度上の要求を満たすため,溶接ならびに焼鈍,形状寸法の決定に必要な各部分の強度解析等の点について特別の問題がある。
 このような問題点を解決するため,超厚板クラッド鋼による溶接検査ならびに高周波焼鈍法を実施して,熔接加工により発生する内部応力を除去せしめる方法が研究されている。
 34年度はわが国民間企業において,シンピングポート原子力発電所の大きさの約1/6で母材40mm,クラッド8mmを用いた模型圧力容器を試作し,100気圧3500Cの蒸気を連続通気した場合の残留応力ならびに内部加,熱による熱応力の実測研究を行なって,フランジ部を中心に設計上の基礎データが得られた。なお測定部に直径0.5〜3.0mmの孔をあけ光を当てた場合に,反射光色のしまの変化により応力を測定する光弾性皮膜法を用いた残留応力測定装置の試作研究も行なわれている。さらに漏洩検査に使用するヘリウム,ガスの漏洩量と原子炉用流体である重水または軽水の漏洩量との関連を検討し,原子炉用炉心容器の微少漏洩の研究が行なわれた。

 (3) 原子炉用熱交換器ならびに気水分離器
 原子炉用熱交換器は気体冷却型,水冷却型,液体金属冷却型の各種原子炉に用いる場合によりそれぞれ異なる。このうち気体冷却型,水冷却型の熱交換器は,造船,化学,発電等の一般工業においても従来使用されているが,原子炉用としては従来のものに比して溶接,加工等に問題がある。
 34年度においては軽水型動力炉の熱交換器(伝熱面積約115m2,胴内径約800mm,高さ約5,500mm)を目標にして,ステンレス鋼管と管板との溶接法,シエルと水室との溶接,焼鈍法ならびに検査法ステンレス鋼とクロム・モリブデン鋼,または炭素鋼との間の異種金属間の溶接法等についての研究開発が主として行なわれた。一方気水分離器は加圧水型について遠心式分離器3種類を3段に組合せたものの研究が行なわれている。
 しかしながら大型原子炉用熱交換器ならびに気水分離器の定常状態ならびに過渡状態における熱伝達,気水分離効率の向上等については今後さらにいつそうの研究開発がすすめられねばならない。
 なお液体金属冷却型の熱交換器は誘導放射能,漏洩防止,熱効率等の点について気体冷却型,水冷却型の場合に比しさらに厳格な要求を満たさねばならぬという問題があり,これらは,今後の研究開発の重要な課題といえよう。

 (4) 原子炉用弁
 原子炉用弁は一般的には水ならびに蒸気の温度,圧力等に関して火力発電の場合と類似点が多く,これら一般工業における研究開発にともない,現在では176kg/cm2口径51cm迄の弁が生産されている。したがって今後は高温高圧下でさらに長期間使用に耐えるとともに,軸封部からの漏洩をできるだけ防止するような弁の研究開発が必要とみられる。

 (5) 制御棒駆動装置ならびに制御用機器
 日本原子力研究所と民間企業が協同して,JRR-3に使用すべき中性子検出器シミュレーター,制御棒駆動機構等の一連の制御系ループを試作しその研究開発を行なっているが,さらに高温高圧,大容量の動力用原子炉に使用する制御棒駆動装置の検討も併せて行なわれている。
 一方温度計,流量計,圧力計,液面計等の制御用機器は,一般工業において従来から数多く使用されているが,原子炉用としては,高温,高圧,耐放射性等の面で従来のものよりも厳重な規格が要求されるので,これらの点については日本原子力研究所を中心に研究開発がすすめられている。

 (6) 燃料棒破損検出装置
 原子炉特有の事故の一つは燃料棒の被覆が破損することである。この破損を初期において発見することは,安全運転の立場から非常に重要な問題である。このためには冷却材循環系の放射能を常に監視して,破損個所から漏洩して冷却材に混入した微量の核分裂生成物を検出する必要がある。
 また冷却材自身が通過することによって放射化されるため,その検出器は冷却材自身よりの放射能と,核分裂生成物よりの放射能とを区別して測定しうるものでなくてはならない。この場合核分裂生成物よりの放射能を測定するための新しい方式として,チェレンコフ効果を利用する方法がある。この方法は冷却材に混入した核分裂生成物が高エネルギーのβ線を放出することによって生ずるチェレンコフ効果にもとづく光の発生を光電子増倍管でとらえて測定するのである。この方法は従来の方式に比べて検出機構が簡単であり,しかもすぐれた特長を有するので,わが国でもこの方式に関する基礎研究がすすめられている。


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