第6章 放射線の利用
§3 放射線化学

3−2 放射線化学懇談会の設立

 かくのごとき,放射線化学の将来の発展性にかんがみ原子力委員会では,なお強力な研究開発を促進し,さらに研究段階から実用段階への移行を推し進めるべく34年9月放射線化学懇談会を設置した。同懇談会は大学関係6名,研究機関3名,会社関係4名,官庁関係2名,計20名の放射線化学の専門家からなり′,主として。放射線化学用照射線源の開発および,放射線利用の最も有効な化学反応の研究,化学用原子炉の調査,大線量測定および放射線化学の研究開発の規模とテンポに関する問題等につき,それぞれ専門の立場から討議し,これらの問題について原子力委員会に答申することとなっている。なお,35年5月の第5回懇談会において,同懇談会の専門小委員会として設けられた研究方針打合せ会ならびに線源打合会の中間報告が公表された。

a) 研究方針打合せ会中間報告
 この中間報告によると放射線化学の研究開発は,例えば次のごとき研究分野および反応プロセスが重要であると考えられている,すなわち,反応プロセスのうち高分子については,フォルムアルデヒドの重合のごときイオン重合反応,塩化ビニール等のラジカルによる重合反応,セルローズにスチレン等を附加させるグラフト重合およびゴム等の架橋反応など,一方低分子物質については最近特に研究が活発になっている石油炭化水素の分解反応,酸化による有機酸の生成反応,高分子物質に対する塩素のようなハロゲン元素を附加させる反応,その他,メタンからアセチレンやエチレングリコールの合成等の反応をあげている。無機物に関してはアンモニア合成に必要とされる触媒の活性化,空中窒素からの硝酸の製造法の反応があげられる。
 さらに同報告では放射線化学を化学工業として確立させるために,線源,照射装置をも含めた反応装置の設計材料の選定,および線量測定機器,測定技術の開発が欠くべからざる条件であるとしている。一方このような実用化への試みとともに,放射線と物質との相互作用に関する基礎的研究として,反応中間体の性質や挙動を追跡したり,また反応機能の研究,種々の添加物やパラメーター,その他外的条件の変化による影響を詳細に検討する必要があり,このようにして始めて新しい応用面の開拓も可能であるとしている。

b) 線源打合会中間報告
 この打合会は,放射線化学の開発にとって有用と思われる照射用線源としての加速器,60Coおよび使用済燃料等につき次のごとき報告を行なっている,

1 粒子加速器
 工業的利用の可能と考えられる加速器としてレゾナントトランスフォーマー,ダイナトロン,インシシュレイテングコアトランスフォーマー(ICT),リニアアクセレレーター,コッククロフトルトンの4種を上げている。
 なお,同報告書では一般的に加速器に必要とされる条件として,電流,kw数の増大,電流電圧の安定度が大きいこと,少くとも二,三日間位の連続運転の可能なこと,修理が短時間ですむこと,管球フィラメントの寿命が大なること,小型であること,吸収エネルギー1kW当り36円(10セント)以下,透過性のよい窓をもつこと,消耗部品が国内でも入手可能なこと,等をあげている。

2 60C0r線源
 放射線工学の研究開発は放射線化学の実用化にとって重要であるので30万キュリーのコバルト線源を設置する必要があるとしている。これにより放射線工学研究の外,照射スペースの拡大化学反応の種類と数量の増加,照射時間の短縮等が可能になり工業的規模での種々の研究が実施しうることになる。
 なお,特に大線量を必要とする反応としては,ベンゼンの酸化によるフエノールの製造等の低分子反応が考えられる。

3 使用済燃料
 使用済燃料については原子力研究所のJRR-2, JRR-3により生ずる使用済燃料を利用することとしている。
 報告書の概要は以上のとおりであるが,なお,今後化学用原子炉および137Cs等のアイソトープにつき調査検討を行なうこととなっている。
 このような粒子加速器,60Coはますます大出力の大線量線源が要求されているが,これら大線源の開発に伴なう技術的,経済的諸問題の解決の可否が,放射線化学発展の大きな鍵となっているので,これらについて早急に強力な研究開発を行なうことが必要であろう。
 なお,当懇談会はその重要性からみて,より活発な活動を行なうために,原子力委員会では35年5月放射線化学専門部会とすることを決定,委員数の増加(21名)をはかった。


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