第5章 核 融 合

§3 B計画とプラズマ研究所

 原子力委員会は,各国の動向よりみて,核融合反応の研究を早急に開始すべきことを決めた。つづいて核融合専門部会を設け,研究方針および研究体制を具体的に決める問題について諮問を行なった。これについて核融合専門部会は33年5月から核融合反応の研究の進め方について審議検討を行なった。その間国内における各方面の研究の進展状況および第2回原子力平和利用国際会議の報告等にあらわれた各国の研究の趨勢を考慮して,35年3月,次に述べるA計画およびB計画の実施を提案する報告書を原子力委員会に提出した。
 A計画は,30年頃から大学,国立試験研究機関等で行なわれてきた研究をさらに進め,特にプラズマに関する物理的諸現象を解明することに重点を置いたものであり,そのために研究設備を充実し,大学にプラズマ科学に関する科学講座を新設し,基礎研究を進めるとともに研究者の養成を行なうものである。B計画は諸外国で開発されてきた,いろいろな型の高温プラズマ発生装置を参考として,中型装置を建設し,わが国の核融合研究の水準を一段と高めるとともに,関連技術の開発を計ろうとするものである。この報告書に基づき,B計画の実験装置の形式,規模を検討するために,日本原子力研究所に核融合研究委員会が組織され,34年4月に発足した。
 一方これと前後して日本学術会議においても核融合特別委員会が設置され,核融合の研究の進め方が検討されることになった。さらに34年5月には,日本学術会議の主催で核融合研究の方針に関するシンボジウムが開催されたが,そこでは上記B計画および研究体制の問題が討論の主な対象となった。さらにまた研究者の自主的組織である核融合懇談会でも,これらの問題がたびたび論議された。これら,いろいろな場での討論を通じて,プラズマの基礎的研究を重視する研究者と,基礎研究の促進と共に高温プラズマの発生実験および技術開発をも重視し,B計画の促進を要望する研究者の間の意見の分れが明瞭になってきた。このような情勢の下で,専門部会はB計画を35年度原子力予算に組入れるべきか否かを検討したが同専門部会の中でも,これについての意見調整が困難であったばかりでなく,核融合特別委員会との間にも意見に開きがあることがわかったのでB計画を35年度予算に組入れることを見合わすことになった。以下に述べるごとく,それ以後わが国の核融合研究は,34年3月の報告書とは,やや違った方向に進んでいる。
 しかし,核融合研究会は,このような情勢の変化にもかかわらずわが国のこの分野の多数の研究者の緊密な協力の下に,数回にわたって熱心な学術的討論を続け,34年11月に研究報告書を発表した。この報告書は答申のB計画の主旨により,中型超高温プラズマ発生装置としてステラレータ型,DCX型,イオン・サイクロトン・レゾナンス・ミラー型を取上げ,設計演習,技術的問題の検討,装量の見積りなどを行なったものである。
 B計画そのものは実現しなかったが,この研究委員会は中型のプラズマ発生装置に関する計画を中心として各方面の研究者の意見の交換のために貴重な場を提供し,その成果は,今後の核融合研究の進展に大いに寄与をするものと思われる。
 一方,学術会議の核融合特別委員会ば,プラズマに関する諸現象を体系的に研究するための中核体として全国的な研究体制の確立を要望した。さらに大規模な高温プラズマ発生装置を持ち,高温プラズマ,基礎実験,理論の3部門7講座で構成される国立大学に付属するプラズマ研究所の設立を提案した。これに基き学術会議では34年秋の第29回総会の決定に基き科学技術庁長官あてに11月28日付で,プラズマ研究所の設立について勧告を行なった。その後設置場所,参加人員などについて具体的な動きが進められている。
 また,プラズマ研究所の設立に関して文部大臣から諮問を受けた国立研究所協議会は35年7月25日にプラズマ研究所の設置の必要を認めた報告書を提出した。


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