第4章 原子力船
§3 原子力船の運航に伴う問題

3−1 国際的規制の必要性

 原子力船を運航するに当っては,その災害に対する考慮が必要である。原子力災害としては,原子炉周辺において放射される2次ガンマー線および原子炉系の破損事故等による,分裂生成物の漏洩,放散による危険が考えられる。原子力船は,衝突,座礁,火災,爆発などの海難にあった場合には,原子炉系の破損を招く危険性が大きい。また入港に際して陸上炉のごとく,人口稠密地をさけるわけにゆかず,さらに海上において事故がおきた場合にも,避難,救済が困難である。これらの事情から,安全性に関しては厳重な規制が必要であり,それと関連して,入港管理,放射性廃棄物の処理等の問題が提起され,さらに,事故が起って,乗員,第三者等が被害を受けた場合の補償問題等についても,船舶の国際性からみて,原子力商船の健全な発展の妨げとならないよう,その最低基準を定める国際協定の取極めが必要である。
 これに関し近年国際的な動きが活発となり,35年5月17日から6月17日までロンドンで開かれた海上人命安全(SOLAS)条約改訂会議においても,原子力船の安全問題が取上げられ,条約中に新たに原子力船に関する附属規則および勧告が加えられた。
 災害補償に関しては,34年9月20日から27日までユーゴスラビヤで開かれた万国海洋会議第24回総会で「原子力船の運航者の責任に関する国際条約」草案が作成され,近くベルギー政府により招請される外交官会議に付議される予定であるが,この問題については特に国際原子力機関(IAEA)の「原子力船の責任に関する専門家会議」において討議されている。


目次へ          第4章 第3節(2)へ