第4章 原子力船
§2 わが国における原子力船開発の状況

2−2 研究開発の状況

 原子力船に対する国内の関心が高まるに従い,政府は研究開発を促進することとし,昭和32年度から運輸技術研究所にこのための予算が計上された。まず,原子炉の船舶推進への適応性および原子炉の特性の研究,負荷応答性,その他について研究を行ない,33年からはこれらの研究を続けるとともに,原子力船では限られた狭いスペースに機器を配置し,乗員が保守点検に入らねばならぬので,原子炉周辺の放射線の散乱現象を究明し有効な遮蔽構造を確立するための研究を行ない,また,原子炉関連機器が船の主機,補機,ポンプ等により共鳴振動を受けた場合どのような影響を受けるかを試験するため,振動試験機を製作し,耐振試験を行なうこととし,さらに船が海洋で受ける波浪等による外力がこれら機器におよぼす影響を調べるため動揺試験機も備えることとした。
 一方,原子力船の特長は,在来船にない高速化,または,潜水船となることによって発揮されるが,このためには綿密な船型試験を行ない,最も効率の良い船型を見出す必要があるので,これに関して模型船について系列試験を行なうことにした。これらの試験は33年度以降も引続いて行われており,その予算額は(第4-1図)に示すごとくである。
 民間においても,各グループで試設計を行なってきたが,実際には建造するまでには,いまだ多くの研究を行なう必要がある。民間における研究は主に船体構造に関連する研究が多いが,原子炉関係については実物は使えないので,模擬回路により研究を行なっておりこれらの中の幾つかには原子力平和利用研究委託費,または補助金が交付されている。その金額は(第4-2図)に示すごとくである。

 わが国独自の研究としては,海洋における波浪等による外力の実態把握,船体構造の中では,船が衝突した場合に原子炉に対する衝撃を最も小さくするような船側構造とか船体区画構造をそのままコンテナーとして利用するための研究などが斬新なものであり,この遮蔽構造工作法の研究,また原子炉関係では原子炉の船の負荷変動にたいする追従性,動揺時における制御棒の落下等の実験も行なわれた。


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