第4章 原子力船
§2 わが国における原子力船開発の状況

2−1 開発の動向

 海外における,原子力商船開発の動きに応じ,世界有数の造船,海運国であるわが国においても,原子力船開発の気運が高まり,昭和30年12月,現在の日本原子力船研究協会の前身である原子力船調査会が,造船海運界をはじめ関係団体,官庁,学識経験者などを会員として発足した。会の活動としては,海外における情報の収集,検討を始め,数種の試設計などを行ない,また,海外より,有識者を招へい,講演会などを開いた。
 これと並行して,造船所,海運会社よりなる原子力船研究グループが多数設けられ,タンカー,鉱石船,貨客船,練習船など各種船型につき加圧水炉,沸騰水炉,有機材炉,ガス冷却炉など,各種の舶用炉を積んだ場合の試設計を発表し,原子力船に関する熱意がたかまった。
 一方,原子力委員会では,32年11月海運造船関係の学識経験者より成る原子力船専門部会を設置し「原子力船開発のために必要な研究題目とその方法」について諮問を行ない,33年12月答申を受けた。その答申内容を要約すると「原子船の開発は多岐にわたる各種技術の結集により初めて達成されるものであり,その開発は計画的かつ綜合的に行なう必要がある。このため早急に研究の対象となる船舶および原子炉を選んで基本設計から始まり実験運転におよぶ一連の研究を行なうべきである。」となっている。
 原子力委員会は,この答申を受けて,新たに33年12月「原子力船開発研究の対象として適当な船種船型および炉の選定」について諮問を行ない,34年9月,答申を受けた。
 その要旨を述べれば「当面の対象として船種船型については将来実用化されるべき原子力船に備えて,詳細設計,建造の経験を得るとともに,完成した原子力船としての各種海上実験,要員の養成訓練におよぶ一連の目的を達成しうるごとき船舶を取り上げるべきであり,油槽船,貨客船,小型船の3船種5船型を選定し,炉型については技術的に発足の段階にあり,将来の見透しは困難であるが,一応これまで海外において開発されでいる,加圧水炉と沸騰水炉を選択した。
 しかしこれらの選定に当っては,上記の外に,開発の時期,あるいは保有の形態等,国の政策的配慮が大きいので,この点を明確にすることを要望する。」となっている。
 これと前後して,原子力産業会議では,内外の動きに応じてわが国の原子力船に関する基本的な開発方針の樹立に寄与するため,原子力船調査団を欧米に派遣する事を決め各方面との協力のもとに,政府,海運造船各界の代表21名よりなる調査団を編成し,34年10月22日より50日間にわたり,米,英,仏,ドイツ,ノルウエー,国際原子力機関などの,原子力船開発の政策,組織,研究状況ならびに経済的諸問題について調査を行なった。調査の結果,当面緊急に検討すべき問題として
(1) 開発推進機構の樹立
(2) 研究開発計画の策定
(3) 研究施設の強化
(4) サバンナ号受け入れと安全基準の制定
を挙げている。これらの情勢にかんがみ,原子力委員会は,原子力船の開発研究およびその運航上の問題の扱いについて検討を加えているが,わが国海運,造船界の要望もあり,遮蔽構造の実験研究を行ない,わが国独自の原子力船船体構造を確立するため原子力研究所にスイミングプール型原子炉を設置することを考慮している。
 また,近く,サバンナ号の日本入港が考えられるので,その受け入れに関しても,法令の制定,改正,港湾施設の整備,行政体制の確立が急がれている。


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