第4章 原子力船

§1 海外における原子力船開発の動向

 原子力の艦船推進への利用は,昭和29年米国海軍原子力潜水艦ノーチラス号の成功に始まり,その後,米国海軍においては多数の原子力潜水艦が就航あるいは進水しており,また,他の艦艇の原子力化も進らめれている。
 さらに,軍用以外の面においても,ソ連では,原子力砕氷船レーニン号が32年12月進水し,現在就航しており,米国でも,原子力貨客船サバンナ号が34年7月21日進水し,近く艤装が完了すると伝えられている。
 原子力推進は,第1に酸素なしに運転できるため,造波抵抗を受けない潜水艦船に利用した場合に,その特長が発揮される。ノーチラス号に始まる北極下潜航横断,トライトン号による84日間潜航世界一周などの快挙はこの特長があってはじめて成し遂げられたものである。なお,原子力潜水船の構想もいろいろ発表されている。第2に,在来船のように,燃料消費量が,馬力,運航距離に影響されず,その分だけ貨物積載量が増加し,長距離航路に就航する高速大型船,に有利である。
 しかし,潜水船は運航技術上問題があり,高速大型船も,現在の船型では,原子力の特長を発揮できるような飛躍的な高速化は期待できない,世界の趨勢が,高速大型化の傾向にあり,老令旧型船が,高性能船により代替されている状況から,当面の原子力船としては,これらの高性能船の分野を対象とし,これと経済的に競合しうることが必要である。
 商船の経済性は,建造船価および運航費用で比較できるが,原子力船は搭載原子炉が在来機関に比べて高価なため,その燃料費の低減,載貨重量の増加による運賃増収が,これに見合うことが必要となる。
 舶用炉としては,加圧水炉を始め,沸騰水炉,有機材炉,ガス冷却炉などが挙げられるが,最近の海外よりの情報によれば,すでに舶用炉として使用されている加圧水炉は今後コスト低下の余地は少ないと見られている。沸騰水炉および有機材炉はまだ研究の余地があり将来性があると思われるが,最も有望なものはガスタービンと組合わせて使用した場合のガス冷却炉であろうと伝えられている。また,燃料費についても,高濃縮ウランが現在の価格の6割程度に下ったとしても,原子炉価格の高価なのを補なうまでに至らず,根本的には,原子炉価格の引下げが必要だとされている。
 このような情勢から,原子力船は経済的にはここ数年内に在来船に代りうるものではないが,将来は当然海運界の相当の役割を占めると考えられるので,造船,海運諸国においては積極的な研究が進められているが,その状況は次の通りである。
 米国では,原子力潜水艦を始め多数の艦艇建造の実績があり,この技術をもととして,実験船を建造,実際に運航経験をつむと同時に,原子力船の国際的発展のため,国際就航上の問題点の解明にも役立てる方針を決め,サバンナ号の建造を計画,34年7月21日進水に至った事は,この点において重要な意義を持つものである。米国ではさらに高温ガスタービンと組合せたガス冷却炉の開発計画(MGCR計画)を進める一方,経済性に合う商船を目標とし載貨重量60,000トン,速力18ノット,出力30,000馬力のタンカーを建造する計画(T-7タンカー計画)を進めている。これらはすべて米国原子力委員会との契約において行なわれることになっている。
 ソ連では34年から原子力砕氷船レーニン号が完成,すでに2万浬の運航実績を有している。
 英国を始めドイツ,ノルウエ-,オランダ等の造船,海運国の行き方についてみるとこれらの国は経済的原子力船の出現に備えて,早期に運航,建造の実績を持つ必要性から,開発研究を進めているが,舶用炉に対する実績を持たぬため,独自の研究も進める一方,技術提携も行ない,最初からできるだけ経済性に合う船を建造することを考えている。建造計画の主なものを挙げると,英国では,ガルブレイス委員会の勧告により,運輸省が載貨重量65,000トシ,出力22,000馬力のタンカ-(沸騰水炉または有機材炉)について,5社より見積書を取ったが,経済性がその建造を決める大きな要素といわれている。ドイツでは,舶用炉として有機材炉を有望視し,造船海運原子力利用有限会社が既存タンカーの主機換装にこれを使う予定であったが,1960年海上人命安全条約の勧告の主旨にそって新造船に搭載することを考慮している。
 ノルウエーでは,船主の合同出資会社が載貨重量65,000トンタンカー(沸騰水炉)について,国立原子力の研究所に試設計を依頼,研究中である。


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