第3章 核 燃 料
§5 ウラン濃縮および再処理

5−1 ウラン濃縮

 核燃料経済専門部会は34年3月末にウラン濃縮小委員会を組織して10回の審議を重ね,その結果を35年4月にとりまとめ,同専門部会第二次中間報告書(ウラン濃縮に関する報告)を原子力委員会へ提出した。
 その報告によれば,近い将来大規模かつ経済的にウラン濃縮を行ないうる可能性のあるものとしてガス拡散法,遠心分離法,ノズル分離法があげられるが,わが国に濃縮プラントを建設する際にとりあげられる濃縮法は,それぞれの方法に関する将来の発展とプラントの建設が意義ありとされるに至った時期との関連において決定されるべき性質のものであるとし,さらにわが国でウラン濃縮を実施すべきか否かの問題について,単に米国原子力委員会の濃縮ウランの公表価格もしくは将来これに代るような国際的な価格と,わが国における国産価格との高低の比較のみから論ぜられるべきでなく,燃料サイクル系に取り入れた場合のエネルギーバランス,外貨節約,さらには海外の政治的,経済的な問題をも考慮して決定されるべきであるとしている。
 上に述べた三つの濃縮法のうち,ガス拡散法は最も開発されている方法で,現在世界において濃縮ウランを生産しているのは米,英,仏,ソの四ヶ国であるが,その方式はすべてガス拡散法によっている。このようにガス拡散法は技術的には一応確立された段階にあるが,その原価構成のうち電力費の占める比率が高く25〜35%にのぼり,上記専門部会報告の試算によれば,この方法でわが国がウラン濃縮を行なった場合,米国原子力委員会の公表価格の1.5〜1.9倍になるものと推定している。
 遠心分離法,およびノズル分離法については,いずれも大量に濃縮ウランを生産した例はなく,その生産原価試算には多くの仮定を伴ない,工学的にも改良されるべき点が多いが,そのうち遠心分離法は原理的にはエネルギー効率においてガス拡散法の数倍の値を得ることが期待でき,遠心分離機の改良によっては,生産原価が米国原子力委員会公表価格の1.7倍ないし1.3倍程度になる可能性があるといわれる。
 ノズル分離法は簡単な装置で濃縮しうる可能性があるが,まだ理論的,実験的な研究が進められている程度で,生産原価を検討するまでにいたっていない。
 一方わが国におけるウラン濃縮に関する研究は32年以来政府Q委託費で進められているが,33年度にひきつづいて「六フツ化ウランの小規模生産に関する研究」および「ウラン濃縮を目的としたウラン化合物に関する研究」が行なわれたほか,新らたに「遠心分離法によるウラン濃縮に関する基礎的研究」が開始された。
 最初にあげた六フツ化ウランの小規模生産に関する研究は,ウラン濃縮の原料としての六フツ化ウランを製造する際の工程の確立とその諸条件を把握せんとするものである。第2のウラン化合物に関する研究は,六フツ化ウラン以外にウラン濃縮に適したウラン化合物を見出そうとするもので,34年度はウラン化合物に関する諸性質の基礎的研究を土台として各種有機化合物を合成し,蒸留に適するような熱に安定な化合物の発見に主目標をおき,その諸性質の検討を行なった。
 最後の遠心分離法によるウラン濃縮の研究に関しては,34年度はウラン濃縮用遠心分離機を設計試作し,分離効果に対する操業条件の影響,長期運転,自動操作等の基礎条件の検討を行なった。


目次へ          第3章 第5節(2)へ