第3章 核 燃 料
§4 わが国の開発状況

4−2 採掘および粗製錬試験

 探鉱の進展に伴ない燃料公社では採堀が行なわれる場合を考え,34年夏より人形峠鉱山の採堀試験を開始し,またこれに先立ち33年度末より茨波県東海村において粗製錬試験を行なっている。
 人形峠鉱山のウラン鉱は軟弱岩層中の礫岩に含まれており,鉱床に起伏が多いのでそれを安全,かつ計画的に低コストで採掘するため,残柱式切羽と長壁式切羽が比較検討されたが人形峠鉱山においては採掘切羽巾をできるだけ大きくとり,機械化をより取り入れうる長壁式採掘法が望ましいことが明らかとなった。また含ウラン礫層の採鉱に発破を利用することができ,採掘能率の増大を期待できることが判った。
 世界における主要ウラン生産国の鉱石の平均品位は(第3-7表)にみられるように南阿を除き0.1%以上である。南阿の鉱石は,他とくらべでかなり低いが含金礫岩中のもので金の採鉱と併行して生産されるから他の諸国とはおもむきを異にしている。

 一般に鉱石の採掘,粗製錬を行なう場合,生産コストに最も大きく影響するのは粗鉱中のウランの平均含有量である。すでにのべたようにわが国のウラン資源は確定,推定,予想鉱量合わせて200万トンと見積った際の品位平均は0.064%U3O8であるが,低品位の部分をすてて外国なみに0.1%に引きあげれば,鉱量はかなり低下しよう。この点から今後高品位の鉱床の発見が望まれるわけであるが,人形峠鉱山の鉱石は礫層中の礫の表面に付着しており,しかも細粒部に多く付着しているので,採掘したままの状態において簡単なふるい分けを行なうだけでも,また鉱石表面に付着している微粉を水洗することによっても容易に品位を高めうる。しかも稀鉱酸に溶解し易いという特長がある。
 このような性質にもとずき,34年2月に燃料公社は原子燃料試験所基礎試験室を設置して,選鉱,破砕,,浸出,溶媒抽出(Dapex法),分解,沈澱の各工程をへてウラン精鉱を製造する中規模の試験を行なってきたが,34年7月末はじめて国産鉱石からのウラン精鉱がキログラムオーダーで生産された。
 溶媒抽出法はウラン濃度の高い澄んだ浸出液からの抽出に適するものであるが,ヒギンス塔を用いたイオン交換樹脂法によれば,濁った浸出液を処理することによって浸出液のろ過工程を省略しうる可能性があるのでここの試験室で採用されている処理システムは(第3-6図(上))のように,ウラン抽出工程において溶媒抽出法とイオン交換樹脂法を併用することによって,その両者を比較検討することになっている。
 そこで燃料公社では,精製錬で使用しているヒギンス式イオン交換樹脂塔と同一原理の移動床型のイオン交換塔を34年12月に据付け,試験操業に入ったが試験回数が少ないうえ,主目的である濁った浸出液に対する試験を終了していないので,溶媒抽出法と比較検討する段階には至っていない。現在までに得られた結果によると,ウラン回収率は約98%程度であった。したがって34年度中の試験は主として溶媒抽出法によって行なわれたが,不純物の除去は良好なうえ,人形峠産鉱石はとくに有害元素が少ないのできわめて純度のよいウラン精鉱がえられた。
 前にも述べたようにわが国には高品位のウラン鉱石が少ないので低品位鉱石の経済的回収を目的として32年度以来,工業技術院東京工業試験所および民間企業において,人形峠産鉱石の製錬に関する研究が行なわれている。東京工業試験所で行なっている方法は,鉱石を径3〜7mmの球に造粒して加熱脱水後ウランを塩化物として揮発させ,冷却,濃縮して補集するもので,33年度までに一応の成果を得,34年度以降にはウランの塩素化中間試験装置に濃縮装置を附設して工程の確立をはかっている。民間企業においては,低品位ウラン鉱石を1回に1トン処理して金属ウラン約1kgを得るように設計された中規模試験設備をつくって,原鉱石からフツ化工程を経て金属ウランを製造する方法を研究してきた。すなわち有機溶剤(T.B.P)を用いてウランを抽出し,途中イエローケーキを沈澱させず,有機相からフツ化ウランを精製して金属還元を行なうものである。34年度からはイエローケーキから金属ウランの精錬工程における総括的な物質収支,副資材の原単位,設備の機構,材質の検討に重点をおき工業化のための試験を行なっている。
 人形峠産鉱石以外にわが国にはペグマタイト中にもウラン鉱床が存在するが,これらは一般にウランおよびトリウムの含有量が低く,その上多くは難溶性鉱物であるので現在は開発の対象になっていない。しかしそのなかにはモナズ石,ジルコン,コロンブ石等いわゆる新金属原料鉱物が含有されているので,それらの回収と並行してウラン,およびトリウムを選別回収するために工業技術院資源技術試験所において32年度以降引きつづき研究が行なわれている。


目次へ          第3章 第4節(3)へ