第2章 原 子 炉
§3 わが国における原子炉開発の現状

3−1 研究用原子炉

 3−1−1 原子力研究所における研究炉の運転および設置

 JRR-1は順調な運転を続け,34年度間の発生熱量は27,413kWHで,35年4月には総発生熱量5万kWHに達したので,その際反応度の異常低下,高出力運転時における出力の不安定,その他各種の問題についても検討することとなった。35年度上半期に炉の運転を停止し,燃料の取出し試験等により徹底的な検討を行なうこととなった。
 この炉は32年8月臨界に達してから約2年9カ月運転されたが,この間短寿命核種アイソトープの製造試験,金属,無機材料,高分子物質,種子類等におよぼす放射線の影響,放射化分析等の研究に利用された。また原子炉運転訓練のためにこの炉を使って10回の運転短期訓練が行なわれた。
 このようにJRR-1がわが国唯一の原子炉として果した役割は大きなものがあったといえよう。
 JRR-2の建設工事はその途次において耐震の面から非常用冷却系統等に関し設計の変更があり,さらに熱交換器,重水ポンプ等の修理を行なわなければならなかった等の理由により,33年4月据付完了という当初の完成予定より約2年遅延することとなった。このように予定よりかなり遅れたが,35年10月1日,燃料要素15本を装荷して臨界に達した。

 JRR-2はわが国としては最初の大出力の研究用原子炉であることでもあり,運転状況をチェックしながら漸次出力を増加していくこととした。
 すなわち,原子力研究所におけるJRR-2の運転計画としては,臨界後約2年の期間を経て10MWの定常運転を行なう見通しである。
 JRR-3は国産1号炉として34年1月より建設が開始されその後工事が順調に進み,建屋の建設はほぼ完成し,一方炉本体工事も35年1月より開始され。3月末までに炉本体下部基礎および熱遮蔽タンクの搬入据付けが行なわれ,36年5月完成を目標に予定通り建設が進行している。燃料については35年5月にAMFカナダ社(前記AMF社とは別会社)と原子力研究所との間に,輸入イエロケーキを燃料公社で精錬した天然ウラン約4トンおよび国際原子力機関より購入した天然ウラン約3トン,合計約7トンの加工についての契約が結ばれた。 一方炉の安全性については充分確保しうるむねの答申が35年3月に原子力委員会より内閣総理大臣に対して行なわれた。

 3−1−2 大学における研究炉の設置

 大学関係では立教学院原子炉,五島育英会原子炉,近畿大学原子炉の設置がそれぞれ,34年7月,34年10月,35年8月に許可された。
 立教学院原子炉は熱出力100kWの水素化ジルコニウム減速濃縮ウラン固体均質型(通称TRIGA-2型)である。現在横須賀市武山に格納施設が完成し,炉本体の工事を行なっており,36年初頃に運転開始の予定となっている。
 五島育英会原子炉は立教学院原子炉と同じく熱出力100kWのTRIGA-2型である。現在敷地の整備を行なっており,36年中頃完成の予定となっている。
 近畿大学原子炉は米国原子力委員会が,34年5月の東京国際見本市に出品したアルゴノート型原子炉(UTR型)を設置するものである。炉の完成予定は36年初頃となっている。

 3−1−3 民間企業における研究炉の試作

 (株)日立製作所および東京芝浦電気(株)は,政府から34年度原子力平和利用補助金の交付を受けて,研究炉の試作を行なうこととなった。この炉は研究,教育訓練を目標とするもので,これによって原子炉国産化のための研究開発が促進されるものと期待される。
 (株)日立製作所が試作する原子炉は,プール型原子炉にタンク型原子炉を折衷複合した濃縮ウラン軽水減速冷却型,強制循環,熱出力100kWの原子炉である。燃料は約10%濃縮酸化ウランペレット,アルミニウム被覆で,炉心はクラスター構造の燃料要素55本を囲むダミー要素,黒鉛反射体よりなっている。これにつき (1)原子炉本体,実験設備,制御計測装置,水循環装置の設計製作研究,(2)燃料要素の設計ならびにU1O2からペレット加工,アルミニウム被覆までの試作研究,(3)これらを綜合して据付組立を行なった上,燃料挿入から運転までの各種試験を行ないその結果の検討等が行なわれる。
 なお,この炉の試作費は約7,400万円で,うち約2,000万円が政府補助金によっており,35年5月には設置が許可された。
 東京芝浦電気(株)が試作する原子炉は,濃縮ウラン軽水減速冷却プール型で,自然循環,熱出力は最大100kWである。燃料は約20%濃縮ウランーアルミニウム合金で,炉心は角型の燃料要素25本をアルミニウム被覆し,黒鉛の反射体要素で囲みプール上部のブリッジで懸垂している。これにつき (1)原子炉本体,燃料要素(輸入),実験設備,制御計測装置,水浄化装置の設計製作を行ない (2)これらを綜合して据付組立を行ない,燃料挿入から運転までの各種試験を行なって試作結果の検討等が行なわれる。
 なお,この炉の試作費は約6,300万円で,うち約1,800万円が政府補助金によっており,35年5月には設置が許可された。


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