第2章 原 子 炉

§1 概 況

 わが国における原子炉の研究開発は,残念ながら欧米の先進諸国に比してかなり立遅れている。先進諸国が自ら茨の,道を切り開いて進んでいるのに対して,その後を遅れがちになりながら進んでいるといった状態である。わが国が早くこのような状態から脱して先進国の水準に到達するには非常に大きな努力が必要とされる。米国が昨年までに商業用動力炉に投入した研究開発費は約6,7億ドル(2,400億円)の巨額に達しており,一つの炉型式を実用規模の動力炉にまでもっていくためには・1億ドル(360億円)程度の資金が必要であるといわれている。このように原子炉の開発には巨額の資金が必要であることからみても,すべての可能な炉型式の研究開発を並行的に進めることは困難である。世界的にみても,現在の開発段階では最もよい動力炉型式がどれであるか決め手がまだ見出されていない状態である。原子力委員会動力炉調査専門部会は35年3月第1次報告書として比較的近い将来に実用化が予想される軽水炉,有機材減速冷却炉,重水減速炉,高温ガス冷却炉の4型式についての検討結果を原子力委員会に報告しているが,それによれば,以上の4型式の炉は開発段階の差はあるにしても,いずれもその将来の発展の可能性は大きいので注目を怠ってはならないとしている。このような背景のもとでは,軽水炉,コールダーホール型炉のごとくすでに実用段階に近づいており,先進国において技術基盤が確立されているものについては,その技術を導入するのが最も効果的であろう。この意味で35年6月原子力委員会は,「原子炉製作等に関する甲種技術援助契約についての考え方」を発表した。それによれば,次のような条件を満たす技術援助契約であればこれを認可し,原子力産業の育成をはかるものとしている。
(1) 導入技術がわが国の原子力開発上有効なものであること。
(2) 対価その他の契約条件が妥当であること。
(3) 導入相手会社が技術的にも,経営的にも優れ,将来の発展性が期待できること。
(4) 受入れ会社が技術的にも経営的にも導入技術の消化,事業化に適当であること。
(5) 原子力産業の健全な発展を阻害し,生産秩序の混乱をまねくおそれのないこと。
 次に増殖炉のように実用化の時期がかなり先になるが将来性の大きなものについては,わが国に適した適当な型を選んで開発を自から遂行する方向へ進める必要があろう。増殖炉は経済性への期待もさることながら,ウラン資源,トリウム資源の有効利用が可能であるから,わが国としては特に力を入れる必要があると思われる。
 さてここで34年度におけるわが国の原子炉開発状況を概観することにしよう。
 まず研究炉では,原子力研究所のIRR-1が順調に運転を続け,35年4月には総熱出力50,000kWHに達し,35年度上半期に燃料検査を行なうこととなった。JRR-2は35年10月に臨界に達した。JRR-3はほぼ建屋の建設を完成し,炉体の組立が開始された。 一方34年5月の東京国際見本市に米国原子力委員会の出品になるアルゴノート型原子炉が展示され,成功裡に運転を行なった。この炉はその後近畿大学が購入することとなり,35年8月に設置が許可された。このほか大学関係では立教学院原子炉,五島育英会原子炉の設置が許可されている。産業界では(株)日立製作所と東京芝浦電気(株)が補助金交付を受けてスイミングプール型研究炉を試作することとなった。また材料試験炉の設量が具体的な問題としてとりあげられ,原子力産業会議は材料試験炉に対する産業界の要望事項についての調査を行なった。その結果をとりまとめた報告書によれば,今後原子炉の国産化にともなって炉材,燃料などの照射試験の要求が大きくなるから,材料試験のための専用炉が必要であり,わが国の技術や核燃料に対する条件からして熱出力100MW程度の濃縮ウラン軽水炉が適当であろうとしている。また,舶用炉の遮蔽設計の研究を行なうことが原子力船建造の経済性にも重要な意味をもつので,このための研究炉としてスイミングプール型原子炉を原子力研究所に設置する計画が,原子力委員会および運輸省の間で検討されている。
 動力炉ではわが国最初の実用発電所であるコールダーホール改良型原子力発電所の設置が,種々の議論はあったが政府によって34年12月14日正式に許可された。動力試験炉の輸入についてもGE社との購入契約交渉が進められ,災害補償について問題はあったが,この点も一応解決し,その後原子力災害補償法案が国会に提出されたので,35年8月30日に契約が締結されるにいたった。また日本原子力研究所に増殖炉開発のため高速増殖炉指数実験装置ならびに水性均質炉系および半均質炉系の臨界実験装置が完成した。民間企業では軽水炉,ガス冷却炉等の熱伝達特性,原子炉関連機器の研究開発が引き続き進められている。


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