第14章 国際関係

§2 保障措置制度確立への動き

 さきにも述べたように原子力の利用を常に平和の目的に限るための方法を一般に保障措置というが,これは,わが国と米英加3国との間の協定にも,また国際原子力機関の憲章にも明記されている。その内容はウランなどの核燃料がいかなる設備に用いられるかを確認し,また,どこにどれだけ使用されているかを明らかにし,必要に応じて査察を行なうことであって,これらの原則は上記のいずれの協定においてもかわりない。
 34年から35年にかけでは,保障措置の内容を具体化する動きがみられた。国際原子力機関においては前述のように実施上の規則が総会の検討を経て近く理事会で決定ざれるという段階にまで到達した。国際原子力機関の保障措置は,わが国のように機関からウランを購入した場合にそのウランについて適用されるばかりでなく,もし双務協定の当事国が国際原子力機関に要請すれば機関がそれらの国に代ってこの保障措置を適用することもできるようになっている。したがって,たとえ国際原子力機関を通じて購入される核燃料の量は多くなくても,双務協定の保障措置の部分が国際原子力機関に移しかえられれば,軍事転用防止の保障措置において機関の果たす役割はきわめて大きいことになる。わが国としてはすでにこのような事態も考慮して米英加3国との協定には,必要に応じて2国間の保障措置を国際原子力機関に移しかえられるような規定をいれたのである。
 わが国はすでに米国から原子炉および核燃料を輸入しているめであって,協定の規定に従えば,米国からこれに関する報告を求められたり,査察官が派遣されたりすることになっている。35年3月に米国は初めて米国が日本向に輸出した核燃料についての査察官を送り,わが国における核燃料の記録の方式を調査した。わが国としても,ウランなどの核燃料が平和的にかつ安全に使用され保管されている必要を認めて,そのために必要な制度を設けているが,海外の諸国から輸入するウランの量が増すと海外諸国のそれぞれの要求に応じるような記録,報告制度を設けることが必要となってくる。核燃料の記録,報告制度は一般に核燃料計量制度といわれ,米英加のように原子力開発に長い歴史をもつ国ではそれぞれ独自の制度を発達させているし,最近欧州のユーラトム諸国も計量制度を確立した。わが国としてもかねてから国際的に最もすぐれた核燃料計量制度を確立することを目標とし,国際原子力機関に専門家の派遣を依煩した。国際原子力機関は,米英加等の諸国の計量制度を検討し,その上にたって国際的計量制度を準備中であったことでもあり,保障措置部長が35年5月に来日してわが国に今後設けられるべき計量制度についての勧告を行なった。
 このように34〜35年においては,一方において国際原子力機関の保障措置の実施規則が制定への道をたどり,他方,わが国における核燃料計量制度が確立への一歩を踏み出したということができる。


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