第14章 国際関係

§1 国際協定の拡充

 原子力の平和利用をすすめるにあたっては,もとより原子力に関する各種の情報も必要ではあるが,特に原子炉などの設備やウランなどの燃料の入手が必要となることはいうまでもない。従来,原子力以外の分野ではこのような設備や資材を外国から入手する場合はもっぱら商業的な基礎にたって行なわれるのが通例であるが,原子力の場合には特に国際的な協定が必要となる。わが国が原子力の平和利用にのり出すや昭和30年に米国と原子力協定を結んだのはこの間の事情を示すものである。それではなにゆえ原子力の場合特に設備や資材の国際的交流に際して特別の協定を必要とするのであろうか。
 原子力の平和利用に国際的な協定が必要とされる理由は,もちろん原子力分野における情報あるいは技術者の交流などの国際的な協力体制をきずきあげるという点にもあるが,もつと直接的には「原爆を伴わない原子力の利用」を保障するという点にあった。すなわち,原子力の国際協定を通じて流通するかぎり原子炉もその燃料としてのウランもすべて登録され,決して原爆に結びつくことなく常に平和の目的に限って利用されるというのが原子力の国際協定の趣旨であった。
 したがって世界各国の原子力の開発が緒につきそれぞれの国の間に原子炉や燃料が交流することになると,原子炉あるいはウランなどの燃料を供給しうる国を中心として国際協定網が整備されることとなった。34年から35年にかけての国際協定の動きとしては,米国がすでに約50国との間に双務協定を結んで網羅的な体制を整備し,これに基づいて約20基の原子炉と220キログラムの濃縮ウラン(235Uにして)を協定締結国に販売または賃貸していること,英国が21国との間に協定を結び特に動力炉の供給の可能性のある諸国との間のねらいうち的協定に重点をおいていること,ソ連が共産圏諸国から外に一歩踏み出してアラブ連合,イランのほかに米国やフランスとも情報および技術者の交換を主とする協定を結ぶに至ったことが注目される。
 わが国は,このような情勢を背景としてすでに米国および英国とは原子力の平和利用全般にわたる協力を進めるための双務協定を結んだが,34年7月には新たに世界有数のウラン生産国であるカナダとの間に協定を結んだ。(35年7月15日に国会の承認をうけ,同27日に発効,なお,協定の内容については昭和33年〜34年原子力年報参照)
 米英加の3国との間の原子力協定の成立によって,当面必要とされる原子炉および核燃料は円滑に入手できることとなったが,さらに将来の問題としては急速に発展しつつある欧州諸国との協力方法あるいはウラン生産国との間の協力方法も考えなければならない。特に欧州においては,欧州6カ国で構成する欧州原子力共同体(ユーラトム)とさらにこれを含む17カ国で構成する欧州原子力機関(ENEA)がそれぞれ地域的な機関としてようやく活発な動きを示してきている。欧州諸国が協同化の成果に自信を深めつつある情勢からみて,これらの諸国といかなる協力関係をうちたてていくかは重要な問題である。
 このように原子力の開発が進めば,世界の諸国の間に原子力の設備,技術,資材の交流はますます大規模になることは当然であるが,その際,この交流を助けるための国際機関の役割はきわめて大きい。わが国は,国際原子力機関の発展を推進するために努力をしてきており,34年9月の第3回総会においてはわが国の代表が議長に選ばれ,加盟70国の代表からなる大会議を主宰した。
 国際原子力機関の活動は広範囲にわたるが,その中でも他の国際機関にみられない独特の機能は,原子力が軍事に利用されないための措置,いわゆる保障措置である。国際機関がこういう機能を十分果たしうるかどうかについて疑問をなげかける人々もあったが,わが国が33年に3トンの天然ウランの購入を申し入れたことを契機として,国際原子力機関の保障措置体制確立の動きは急速に進められ,34年9月にはその一般原則が暫定的に承認された。35年9月の第4回総会にはこの一般原則が提出され15国提出の決議案によってこれを理事会において決定することになった。国際原子力機関みずからが軍事を伴わない原子力利用を推進する方法を講じうることになれば,これまで各国の間に結ばれている双務的な国際協定よりさらに包括的な体制がととのえられることになる。


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