第13章 科学者技術者の養成

§4 国内における養成

1) 原子力研究所における養成
 原子力研究所は,東海研究所におけるわが国最初の原子炉JRR-1の運転をはじめとして,諸研究設備も建設段階を経て次第に整備されるにともない,原子力関係科学者技術者の養成訓練に大きな役割を果してきた。
 34年度は,新たに原子炉研修所が創設されたが,同研修所は,原子炉を中心とする原子力技術者の養成訓練を行なうことを目的としており,高級課程と一般課程とに分けられている。高級課程は,大学卒業後5年以上を経たもので,原子力工学研究に従事しているものか,または将来従事しようとする大学職員,国立研究機関,民間企業の研究員を対象としており,研修期間は1年で,課程終了後は所属団体へ復帰の上,原子力技術研究指導の中堅となりうることを目標としている。35年3月に15名の第1回研修生がこの課程を終了した。一般課程は,大学卒業後2年以上を経たものを対象としており,研修期間6カ月の間に,原子力関係の一般知識を修得し,原子力関係技術者,研究者,管理者として必要な訓練を身につけることを目標としている。35年3月に開講され35年8月に16名の第1回研修生を送り出した。
 上記の原子炉研修所とは別に,JRR-1を用いて原子炉の短期運転訓練が行なわれてきた。これは,JRR-1の運転に支障のない範囲で行なわれた短期運転訓練講習会であって,33年9月から35年4月までに,10回にわたって約150名がこの講習に参加した。
 アイソトープ関係についてはラジオアイソトープ研修所がある。ここでは年間8回(1回4週間)の講習を行なっており,放射性同位元素取扱主任者に要求される程度以上の知識,技術を有する科学者技術者の養成訓練を目標として,33年1月開所以来,35年7月まで,計18回518名におよぶ研修生を訓練してきた。その専門別,所属別の内訳は(第13-3図)の通りである。所属別にみると官公庁と民間からの研修生がほぼ同数であり,専門別では,理工関係が全体の65%を占めている。

 

2) 放射線医学総合研究所における養成
 放射線医学総合研究所では,34年度1,100万円の予算をもって養成訓練部を設け,放射線防護短期課程の研修を開始した。その目的は現に放射線防護の業務に従事し,また将来従事しようとする者に対し放射線防護に必要な物理学,化学,生物学および医学の基礎知識を与えるとともに,実務上必要な技術を修得せしめることにある。期間は8週間で,1回の研修生は30名である。35年3月に第1回を,同6月に第2回を開講し,60名の研修生の養成訓練を行なった。その研修生の内訳は(第13-3表)の通りである。増大するアイソトープ利用また放射線利用に伴なって放射線による人体の障害の予防,診断および治療ならびに放射線の医学的利用に関する技術者の養成訓練の必要性はますます大きくなると思われるので,防護関係の技術者の養成訓練に果す放射線医学総合研究所の役割は,今後多大なものがあるといえよう。

3) 大学における養成
 技術革新の一分野である原子力の研究開発は,優れた科学者技術者の研究によって進められていくものであるから,大学が原子力関係科学者技術者の養成訓練に果す役割は誠に重要である。
 この重要性にかんがみ,前記養成訓練専門部会の答申においても,設置さるべき原子力関係専門学部学科または大学院専攻科目の数および定員等については,今後の原子力研究開発の進展と関連せしめつつ慎重に検討するとともに,文部省その他関係機関において,科学技術の振興,大学教育制度の整備等と照応せしめつつ総合的な設置計画を立案する必要があると述べている。
 31年度以来,34年度までに国立大学に新増設された原子力関係の学科講座は,大学院課程が7講座学生定員計78名,学部学科においては49講座である。34年度までの開設分および35年増設計画の詳細を(第13-4表)(第13-4表)(第13-4表)に掲げる。これら講座の内容と定員について述べると,大学毎にかなりの差はあるが,全体的に眺めてみると原子核物理等の基礎講座の設置から,放射線防御等の講座の設置へと発展しているようであり,定員も35年度新増設を含めて,総計173名(内訳大学院117名学部学科56名)となっている。また核融合の研究開発のために,いわゆるB計画の進展にともなって,35年度に,プラズマ関係の3講座が設置されたことが注目される。

(3) 学部学科
     (33年度開設)  京都大学工学部原子核工学科  (定員20)
     (35年度開設)  東京大学工学部原子力工学科  (定員36)

4) 放射線取扱主任者国家試験と原子炉主任技術者国家試験
 放射線障害防止法の規定に基づき,放射性同位元素の使用者等が放射線障害防止について監督させるために選任しなければならない取扱主任者の国家試験が,33年3月から34年9月にかけて4回実施された。
 取扱主任者になり得る資格としては,従来は,国家試験に合格した者または科学技術庁長官が,これと同等の知識および経験を有すると認めた者であったが,35年5月の障害防止法の改正により,今後は国家試験の合格者のみに限られることに赴った。さらに取扱う放射性同位元素の強度によって,第一種取扱主任者と第二種取扱主任者に分けられることとなった。
 35年8月15日現在で国家試験に合格した者は664名,認定を受けた者は261名となっている。これを(第13-5表)に示しておく。

 次に原子炉主任技術者とは,「核原料物質,核燃料物質および原子炉の規制に関する法律」に基き,保安規定の実施と保安の監督にあたる者であり,国家試験に合格した者ならびに科学技術庁長官によってこれと同等の知識および技術を有すると認められる者がその資格を取得することになっている。
 第1回原子炉主任技術者試験は,34年3月に筆記試験が,7月に口答試験が行なわれ,59名中7名が合格している。また資格の認定を受けた者は32年12月から34年7月までの間に5名である。第2回の国家試験による合格者は,7月22日付で15名が公告された。
 以上,二つの国家試験について述べてきたが,これら放射性同位元素取扱主任者と原子炉主任技術者が増加していくことは,日本原子力研究所,同ラジオアイソトープ研修所および放射線医学総合研究所における養成訓練とあいまって,わが国の原子力研究開発の万全の体制を整えるために誠に重要であるといわねばなるまい。


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