第12章 災害補償

§1 災害補償の必要性

 原子力の開発利用にあたっては「核原料物質,核燃料物質および原子炉の規制に関する法律」(以下「規制法」という)によって厳重な規制が行なわれており,第三者に被害のおよぶような原子力事故の発生は未然に防止されるしくみとなっている。しかしながら原子力は科学技術の最尖端をゆくものであるだけに未知の要素があり,原子力事故の起る可能性を全く否定しさることは理論的には難しいし,また一度災害が発生した場合には極めて大規模な範囲におよぶことも予想される。したがって,万一原子力事故が発生した場合にも十分な損害賠償がなされるような方策を講じて,施設周辺の住民の十分な保護につとめる一方,原子力関連産業が安んじて原子力事業に寄与しうるようにしなければならない。
 このような第三者の保護と原子力の平和利用の推進という二大目的から,各国とも原子力災害補償に関して特別の立法をし,あるいはその準借を進めている。すなわち32年には米国が,34年には英国,ドイツおよびスイスの諸国が原子力災害補償制度を法制化しており,現在ではイタリヤ,スエーデン等で法案の審議が行なわれている。また原子力災害補償は地理的な関係から,あるいは原子力施設や核燃料の輸出入にともなって,一国の問題にとどまることなく,国際的にひろがる可能性をもっているので,国際原子力機関でも「原子力損害民事責任に関する最小限度の国際的基準に関する国際条約案」を検討中である。


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