第10章 放射線障害防止および廃棄物処理
§4 研究開発の現状

4−2 放射線医学総合研究所

(1) 物理研究部では,放射線の測定法の研究として7線用低バックグラウンドカウンター,ラドン計および,人体各部のβ,γ,X線の吸収線量の測定装量の試作研究を行なった。また医療に際して放射線を利用して疾病の診断治療を行なう場合の決定臓器および組織の被曝線量,ならびに照射容器からの2次線量を測定して,その防護法の研究を行なっている。

(2) 化学研究部では,放射線の直接および間接作用の研究として炭化水素化合物およびアミノ酸蛋白を使って放射線の直接および間接作用の機構,それらの寄与の割合等の研究を行なっている。また微生物における核酸および蛋白質の代謝に対する影響の研究として,照射された大腸菌により合成されたリボ核酸蛋白質の性質ならびにその関連性の研究を行なっている。さらに放射性フォールアウト中のSr,Cs,U,Pu等の化学的分析法の研究を行なっている。

(3) 生物研究部では,放射線の細胞に対する作用の研究として動植物の細胞の放射線感受性とその機構の研究を行なっている。また放射線の代謝に対する研究として生物エネルギー系への放射線の作用,細胞繊維の放射終感受性と代謝との関連性の研究を行なっている。
 放射線の遺伝質に対する作用の研究として,ショウジョウバエの各系統について放射線感受性の差異と遺伝学的機構および突然変異の誘発とその機構の研究を行なっている。

(4) 生理病理研究部では放射線の内分泌および生殖機能におよぼす影響の研究としてねずみを使用してその睾丸における男性ホルモンの生合成および副腎の副腎皮質ホルモン生合成におよぼす放射線の影響の研究を行なっている。また,放射線の腫瘍発生におよぼす影響の研究としてねずみを用い,放射線によって脳下垂体卵巣系機能の変化から卵巣に発がんするまでの過程の研究を行なっている。

(5) 障害基礎研究部では,放射線の影響に関する研究として,造血臓器主として骨髄および脾臓に対する放射線の直接および間接作用を核酸,蛋白,脂質代謝の変調という面から研究している。また許容量に関する研究として,微量放射性物質の長期被曝の影響を放射線取扱者について被曝線量と障害との量的関連性を研究中である。
 障害の予防,早期発見に関する研究として,放射線障害の防止と,軽減のための新しい体内酸化還元剤,体内沈着の放射性物質の除去剤の研究をすすめている。

(6) 環境衛生研究部では,原水爆によるフォールアウトによる汚染の調査研究を行なった。また,原子力産業の発展に伴ない放射線を取扱う職業環境の問題を解明するため,放射性物質による人体汚染の機構および生体内の照射量の研究を行なった。なお,放射性物質による食品の汚染および除染に関する研究もすすめている。

(7) 臨床研究部では,原爆被曝者の後影響を血液学的,臓科的,泌尿科的検査等によって調査した結果ビキニ被曝者10名には大した異常はなかった,また,50名の広島,長崎の原爆被曝者では数名に白血球の減少を認めた。
 ラジオコロイド療法の研究としては放射性ルテシウム,金,燐酸クローム,イソトリウムの体内分布,線量治療効果の比較検討を行なった。またシンチスキャンナーによる診断法の研究として,スキャンナーの改善研究を行なっている。


目次へ          第10章 第4節(3)へ