第7章 アイソトープ利用の効果
§3医学における利用

アイソトープの利用が,生物学的研究で初めて行なわれるようになったのは,Hevesy以来で,その後生物学および医 学に広く応用されるようになった。わが国においては,特に戦後の利用は,アイソトープの輸入開姶後直ちにはじ まり年々盛大になってきており,現在ではアイソトープの約60%が医学的な目的で使用されているのをみると,いか に広範にわたっているかうかがわれよう。
 医学上の応用を大別すると1)基礎的医学研究への利用2)診断への利用3)治療への利用の三つに分類しえよう。

1)基礎医学的研究

 まずアイソトープによる微量定量法としてのトレーサーテクニックがあり,物質の移動ならびに物質の分布を知るためのアイソトープの利用,希釈法,代謝研究,2重標識法,薬物の体内分布と作用機転,オートラジオグラフィーの利用などがあげられる。

2)診断への応用

 トレーサーによる診断への利用では82Pならびに131Iが特に多く,たとえば32Pによる核酸リンとしての細胞核への集合率を利用しての腫瘍や炎疲の診断への利用があり,これにより甲状腺機能診断は非常に早く,高率で吸収されるので,非常に多くの場合は経口的投与によることができるものである。また181Iによりラベルした化合物で肝臓機能や腎臓機能を検査することができる。その他として51Crによる血球量や血漿量の測定,これらの応用による悪性貧血者の貧血の診断,60CO,58COなどによる悪性貧血のビタミン10B12による診断,42Kによる脳腫瘍などの診断への応用,35Sによる薬品の中間代謝などの研究による薬品の製造上の問題,14Cによる糖質量の測定,3Hのラベルコンパウンドによる循環血液での定量による動脈硬化の診断への応用その他がある。

3)治療への応用

 治療については,ラジウム代用としてのアイソトープの放射線療法が広く利用されるようになり,γ線療法の応用が最も広く,β線療法も行なわれている。γ線療法としては60COが一番多く,137Cs,182Ta,198Auの利用がついでいる。またβ線療法としては32P,89,90などがある。
 このほか,針,線の使用は定常化しており,内用療法としても,バセドー氏病の治療,白血病ならびに多血病の治療などがある。なお,他の傾向としては,コロイド状アイソトープー-すなわち32Pによるcapo4(pが32P)の結晶からなるコロイダルのものを用いた腫瘍組織への照射による治療,同目的で90Srからの90Yのコロイダルによる治療,コロイダルの198Auによる悪性腫瘍やガン性の腹膜炎や肋膜炎への周辺注射,腔内注射による治療などがある。特に最近は177LUの骨に関係のある腫瘍への応用などがある。
 また今後のアイソトープの医学への利用としては,より根本的,系統的な探究が期待され,大いに研究が望まれている。これらアイソトープ利用の技術も非常な進歩をみせ診断でのシンチスキャンナーの普及,スペクトロメーターの採用,各種ラベルコンパウンドの利用などによるものが目だってくるだろう。


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